3、呪いの代償

第38話 呪われた女性

「そういえば……確かに今日、花を触っても石にならなかったです……」

「花に触れたのか?」


 グイファスが尋ねたので、メレンケリは頷いた。

「この山に入る前に、二人が何か話していたでしょう?その少し休んでいる間に、傍にあった花に触れてみたのよ」

「……君が仕事以外にその手袋を外すとはね」


 グイファスはメレンケリに色々と話を聞いていたので、彼女の行為が意外だったのだろう。そしてそれはメレンケリも認めていた。


「私も、そうするつもりはなかったんだけれど、父の話を聞いて何気なくね。でも、少し嬉しかった。私の力が及ばないものがあるのだと、知ることができたから」

「そっか……」


 グイファスが金色の瞳を細め、柔らかく笑った。その様子をマルスは勿論フェルミアも、何気なく観察していた。

 そしてメレンケリはグイファスに向けていた顔を、フェルミアの方へ向け尋ねた。


「フェルさん……それで、私のこの手の力なんですけど、勇者が、人々を助けるために自分の身にその呪いを引き受けた代償と仰っていましたけど、これってどういう意味なんですか?」

「ああ、そうだったね」


 するとフェルミアは椅子に戻る前に、皆のカップの中を覗き空っぽになっていることを確認すると、再びキッチンの方へ行ってお茶を淹れる準備をする。


「それは、ちょうど一五〇年……いや、もう少し前だろうか。当時の呪術師たちには、戦わなくてはいけない者がいたんだ」

「戦わなくてはいけない者?」

「そうだ。呪術師は、森に入った人々が持ち込んだ邪悪なものを浄化するといっていたが、それが暫く放置されて大きくなってしまったものがあってね。それが森に入った女性に乗り移って、狂暴化してしまったのだよ」

 メレンケリは思わず口に手を当てた。

「狂暴化……?」

「そう。邪悪な力を受けてしまった女性は、森に入る前に夫から浮気されていたことが発覚したんだ。それで怒り狂った女性は、家を飛び出て森に入った。すると、邪悪な力が共鳴し彼女に憑りついてしまったんだ」

「それからどうなったんですか……?」

「女性はそれはそれは醜い姿になった。長い髪の毛は、蛇になり、目は赤く宝石のようになった。そしてその目にはある力が宿った。睨まれた者は、女だろうが男だろうが石にされる力だ」

「石……」

「そうだ。石だ」


 フェルミアはお茶の入ったポットを暖炉の方へ持っていくとそれを火にかけ、自分は再びメレンケリの隣に座った。


「それからサーガス王国では、人が石になる事件が起きた。蛇の頭をした女性はすぐに気が付くだろうが、フードを被って出歩いていたようだからみんな気が付かなかったんだ。そして彼女に会って、彼女を恐れたり、醜いと言ったものは、皆石にされていった。そして彼女はいつしか『グレイ・ミュゲ』と呼ばれるようになった」

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