第22話 180度違う意見

 グイファスは、顎に手を当てて考える。


「どうだろう。簡単なことではなさそうなことは確かだけど」

「どうして?」

「君の父や、祖父もその力を継いできたのだろう?なくすことができるのなら、とっくにしていないだろうか」


 メレンケリは首を横に振った。


「父と祖父は私とは違うわ。力を崇めていたもの。あの人たちは、自分にこの力が宿ったことを後悔とかしていないわ」


 自分の生きる方向性を決めた父に腹立たしさが込み上げてしまい、つい強い口調で変えてしまったが、グイファスは彼女のその様子に何かを感じとると静かに頷いた。


「そうか」

「ねえ、その呪術師に会えたら頼めないかしら」


 気を取り直して、少し前のめりになりながらメレンケリは尋ねた。だが、グイファスは肩を落とす。


「残念だけど、呪術師の居場所は分からないよ。分かっていたら、封印の石を貴族の家で探して捕まったりしていない」

「それもそうよね……」

 メレンケリはため息をついた。

「そして呪術師のことなんだが、俺よりも、きっと君の方が詳しいんじゃないかと思うんだが」

 グイファスの意見に、メレンケリは自分を指さした。

「私?まさか。呪術師の話なんて、今初めて聞いたわ」

「しかし、呪術師が作った手袋を君は身に着けているだろう。だったら、君にその手袋を渡してくれた君の父親に聞けば、何か分かるんじゃないだろうか」

 そう言われ、そろそろと自分の手袋のはまった右手を見つめる。

「……」

「どうした?」

「気が乗らないのよ。そもそもこの手袋を私に渡したのが父なんだもの」

 グイファスは額に手を当てる。彼女がそう思ってしまう出来事には心当たりがありすぎる。

「それは確かに分からないでもないが……」


 昨日、メレンケリの父が彼女の考えを尊重していない、という話をグイファスがしたばかりだ。

 力は家の象徴。アージェという家を繁栄させてきた力。だから、メレンケリよりも右手の力のことを父は考えている、と。


 そしてグイファスが話した内容についてメレンケリも同意見を持った上で、父に手袋の話をしたところで、『仕事に集中しろ』と一蹴されるような気がしたのである。するとグイファスが意外なことを口にした。


「もしかしたら、君の父親は何か考えがあってそういう態度を取っていたのかも」


 昨日の話と一八〇度も違っていて、メレンケリは眉を寄せた。


「あなた、何言っているの?昨日私に『父親は君のことを考えていない』と言ってたじゃない」

「まあ、そう言ったけれど」

「言ったけれど、じゃないわ!あの後、私色々考えたんだから!」


 グイファスに左の手首を掴まれてどきどきしたこと以外に、父に言われて従ってきたことや、メレンケリは自分が他になりたい職業について考えていたのである。

 それなのに、そういう考えをさせた彼が考え方を変えてしまっていては、メレンケリも困るというものである。


 文句を言いそうになるメレンケリだったが、グイファスの手のひらの静止によって口を閉じる。


「うん、俺は君に色々言った。父親のこととか。その右手の力のこととか。だけど、俺も君が帰ってから考えたんだ。何というか…君の父親の立場になって考えてみたんだよ」

「何故、そんなこと……」

 グイファスは頬をちょっとかきながら、照れ臭そうに次のように言った。

「あのとき俺が言った言葉って言うのは、俺の立場から君を見たときの話なんだ。俺は君が右手の力で苦しめれているのを見るのが辛かった。それと同時に、君はきっと優しい人なんだろうと思った。そうでなかったら、人を石にした後にあんな風にふさぎ込んだりしない。それなのに、周りには気丈に振舞わなくちゃいけなくて、平気なふりをする。いつも無表情で感情を出さないようにしていたのは、そういう喜怒哀楽がはっきりしてしまうと皆に心配をかけるからだと思った」

「……」


 メレンケリは胸が締め付けられるように感じた。そして涙が出そうになる。


(まるでこの人には、私の心が透けて見えているみたい……。でも、どうして?)


 グイファスが言葉を続ける。


「だから、俺は君の父親は酷いと思った。君がそんなにも辛い思いをしているのに、『石膏者』になれという。そして、その道を作ってきた張本人だ。君が別の道を選べるように考えもしなかった酷い人だと思った。だけど、君が帰った後考えたんだ。もし、父親の立場だったら。娘が人を石にしてしまう力を持っていたらどうするんだろうかって」

「どう、するの?」


 メレンケリが上目遣いに、グイファスに尋ねる。すると彼は、困った顔を浮かべた。


「多分君の父親と同じことをする、と思った」


 メレンケリは訳が分からなった。


「どうして?」


 だが、彼は答えなかった。


「お父さんに聞いてみたらいいよ。もしそれで教えてくれなかったら、俺の考えを教えてあげるから」

 そう言って優しく笑うのだった。

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