「何が燃えてるんだ?」マイケルが訊く。

「〈長老〉だ。液体燃料をかけられた。助からない」

「なんてこと……」ドロシーの顔がひきつる。「ボブがやったのね」

 デレクは苦い顔で頷いた。

 発作を起こした惑星子ほしのこは八人。そのうち〈長老〉に近い場所で倒れていた二人は助からなかった。〈長老〉が受ける暴力を直に見て、凶悪な感覚が共有意識に拡散するのを命がけでブロックしたのだ。

 マキルがやって来た。緊急時でも代表制だ。いや、彼以外は暴力の現場を避けたのだろう。

「すまない。何と言ったらいいか……」マイケルが詫びる。「ボブがやったことだ。とりあえず監禁するつもりだ。そちらが納得できるよう話し合わねばならんが」

 マキルは動揺したようすもなく応えた。「わたしたちは死を悲しまない。生と死は〈相〉の変化でしかありません。死者は〈収穫〉され、殻は廃棄され、精神界と物質界をそれぞれが循環するだけのことです」

 空へ昇る黒煙はしだいに薄くなっていった。〈長老〉が燃え尽きる。

 ドロシーは額に手を当てる。不協和音を感じる。それがドロシーを不穏にさせる。

 蜜樹ハニーツリーたちから届くイメージは一つの音楽に似ていたが、それが無秩序な音のざわめきに変化していた。統一された合唱が、個々の身勝手な呟きになった。指揮者を失った演奏は崩れた。

 辺りを見廻していたデレクは、倒れている惑星子ほしのこの一人を見て表情を凍らせた。

「どうかした?」

 ドロシーが彼の視線を追うと、その惑星子ほしのこはデレクのネックレスを握っていた。

「武器庫の電子鍵キイがない」デレクの声は感情を喪失している。

 ネックレスのトップだけが消えていた。

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