14 破綻


               *


 早朝の光が野に充ちている。陽光が恵みのように暖かい。

 数人の惑星子ほしのこが、蜜樹ハニーツリーの樹孔から採蜜作業をしている。毎朝の光景だ。

 気持のいい風を切って、デレクは日課のランニングをしていた。いつものコースをたどり、基地へ上る緩い坂道の手前、作業する惑星子ほしのこたちの横にさしかかったときだった――

 ピーッ、という笛のような悲鳴をあげて惑星子ほしのこたちが棒立ちになり、次々に倒れはじめた。

 異変を目にしたデレクは道を外れて駆け寄り、間近の一人を抱きとめた。

 暴力過敏反応バイオレンスショック! どうして?

 眼球が上転している。宙を掻く手がデレクのチェーンネックレスをつかむ。

 か細い腕からは信じられない力で引っ張られ、首が締めあげられた。

「離してくれ。助けを呼ばないと」

  呼びかけても既に意識はない。一刻を争う。

 ネックレスの留め具をはずして首を解放し、小柄な躰を草の上に横たえた。

 情報端末タブレットでドロシーに状況を伝える。あとは薬の到着を待つしかない。

 きな臭いにおいが空気に混じっていた。ぐるりと辺りを見廻すと、樹林の奥から煙が立ち昇っている。

 何だ? 

 樹々の奥からボブが姿を見せた。焦点の定まらない目はデレクに反応しない。

 近寄って腕をつかんだ。「何があった?」

 やっと気づいたようにこちらを向く。

「うるさいから黙らせただけだ」それだけ言うと、デレクの手を払いのけて行ってしまった。

 デレクは樹林の奥へ、煙の方向に進んだ。熱気が漂ってくる。最深部のひらけた場所に出ると、激しい熱の輻射が襲う。思わず顔を手で庇う。

 広場の中央に立つ〈長老〉が火柱に包まれていた。

 斧と燃料タンクが投げ捨ててある。斧にえぐられた樹皮の破片が、辺りに散乱している。

 斧を叩き込まれ、あげくに放火されたのだ。

 液体燃料の火が相手では、消火器を用意する時間はない。火炙りにされる大樹はもう救えない。

 デレク!

 樹林の外から呼ぶ声がした。


 蜜樹ハニーツリーの林から立ち昇る黒煙は、澄んだ青空を汚して拡がる。禍々しくて凶事を暗示するようだ。カートで到着したドロシーとマイケルは、大声でデレクを呼んだ。 

 手分けして、倒れている惑星子ほしのこたちの手当にかかる。抗痙攣剤を注射してまわる。症状は重篤だ。行使されたのは激しい暴力。

 樹林からデレクが姿を見せた。

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