「三十分過ぎてる」
ドロシーは席を立った。
ボブは何も言わない。
「ごちそうさま。今夜もいい夢を見るわ。あんたもそうしたら」後ろ髪を引かれたが、ドロシーは部屋へ引き揚げることにした。
残された男は、ダイニングの椅子にへばりついたまま、遠くを見る目をしていた。
暗い自室へ戻ったドロシーは、闇を追い払うために、すぐに灯りを点けた。
肝の据わったことを言ったくせに、ニルヴァーナがもし願望が紡いだ個人の妄想にすぎないなら、ドロシーは耐えられない。
上流の娘たちが集う私立女子校に、
家出する――ママを脅して、
そこには、ドーナツの輪なんて上品なものはなかった。
ハデな肉弾戦になり、関わった男女数名の生徒は父兄付きで校長室に呼ばれた。
ママは嘆き、神に祈り、そして娘が嫌がるイヤミを言った。「血は争えないわね」
乱闘した子供たちとは、その後、大人になるまで長い友人になった――
他者が居て、交流してこその〈世界〉じゃないか。ドーナツに閉じ込められた一人芝居なんか、まっぴらだ。一人きりで億の年を暮らすなんて――恐怖に叫び出しそうだ。
崩れ落ちる心を繋ぎ留めようと拳を握った。パパもママもここに居る。たとえ98%が労働に駆り出されているにしても、2%でもきっと居る。わたしは一人じゃない!
確かめようがないことは――不可知論は、救いなのか苦痛なのか。
隣室から、ボクシングを観戦する脳天気な声が聞こえる。
その夜、彼女は灯りを点けたままで眠った。
*
日が経ち、ポーレは産卵した。三個の卵が孵化を待っている。
そんな彼らに特別な関心も示さず、
〈花祭り〉というイベントが近い。〈長老〉を中心に作られた惑星中の集落すべてで、それは同時に催される。舞う花びらの下、輪になって歌い踊るのだ。
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