*

 

 開拓基地へ戻ったドロシーは指令室へ行き、メインコンピュータを起動した。先ほどマキル夫妻に聞いた話を再度検証するために。

 データを漁ってみても、〈ニルヴァーナ〉という語は惑星子ほしのこ特有の共有意識形態として説明されているだけで、宇宙の種子たねだの、神になるだのという記述はどこにもない。地球向けデータからは除外されている。

 ドロシーはマキルの言葉を思い返した。

 ――〈思念〉のエネルギーを集めて〈種子〉を創る。ニルヴァーナはそのための演算をする。

 思念コンピュータ――脳の畑に育った〈思念〉を演算素子にする。素子の数が欲しいから、惑星子ほしのこを短命にし多産にする。素子を増やせるだけ増やして集積し、〈思念演算チップ〉を量産し、ニルヴァーナの〈頭脳〉を増設し続ける。そうやって演算を加速しても、間に合うかどうかわからない。あと56億7千万年ないから……

 誰があんなシステムを創った? 異星人か。それとも、あったか。それとも、宇宙消滅の危機感から、突然湧いて出たか……

 ふと、隣りのサブコンピュータに挿されたままのメモリカードが目に入った。

 何だろう? サブも起動してみる。

 立ち上がったサブのディスプレイにカードのデータが表示された。

 ドロシーは嘆息した。ポルノ動画だ。直前のアクセス・アカウントはボブ。

 画面上にずらりと並ぶ無数のサムネイルのプレビューで、それぞれのカップルが絡み合って動いている。 

 地球人オリジナルの繁殖行為だ。

 異星で目にするそれは、なんて牧歌的だろう。こうして殖え、自分と家族を守るためにヒトは戦ったのだ。知性やら理性やらを得て別格のつもりでいた哺乳類も、繁殖と戦闘のときはケモノに戻る。

 惑星子ほしのこはもうすっかり忘れてしまったのだろうか。世代を継ぐために、かつてこのような熱いがあったことを。ケモノであったことを。

 ポルノのサムネイル表示を閉じ、サブコンピュータをシャットダウンした。カードは抜いてボブのファイルケースに放り込む。

 ニルヴァーナの擬似コンピュータは宇宙誕生シミュレーションを演算しているのに、こっちはポルノ映像再生処理の演算か……のどかなことだ。

 あまりのギャップに失笑する。

 空気が生臭いのはそのせいだ。デスク下のダストボックスに、丸めたティッシュが積まれていた。

 きたないとは思わない。生きものは遺伝子の容器で、世代を繋ぐことは課せられた最優先コマンドなのだから。

 ドロシーは服の上から乳房を触ってみた。

 この張りのある躰は、オスを引き寄せるためにある――

 誘惑に応じなかったデレクの抑制を思った。

 絶滅寸前のオスが三匹、メスが一匹。オスに抑制がなければ、わたしは輪姦まわされていたのかもしれない。

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