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「菫お嬢様は今から二ヶ月くらい前に京都の病院で亡くなりました。……それは菫お嬢様の二十歳のお誕生日のほんの少し前の出来事でした。菫お嬢様はなんとか誕生日までは生きようと頑張っていたのですが……、その願いは叶いませんでした」
鶴はなんだか、頭の中がふわふわとして、桃子さんの言っている言葉の意味が、やっぱり、うまく理解できなかった。
現実感がほとんどなくて、まるで桃子さんがタチの悪い冗談を(そんなことは絶対にないとわかっているのに)鶴に言っているような気がした。
「……ちょっと待ってください」
鶴は言った。
鶴の体は小さく震えていた。
「菫は、えっと、藤原さんって男の人と結婚をして、……そりゃ、少しは不自由かもしれないけれど、二人で幸せに暮らしているのではないのですか?」鶴は言う。
「はい。確かに鶴さんのおっしゃる通りです。……お二人は本当に幸せな結婚生活を送っていました。それは短いけれども、真実の愛のある生活でした。ずっと身近にいた私にはそれがわかります。お二人は覚悟をして結婚をして、……その約二年という二人だけの幸福な時間を勝ち取ったのです。それは、それは、本当に、本当に……」
そこまで言ったところで、桃子さんは下を向いて、鶴の前で涙を流した。
桃子さんが泣いている、と鶴は思った。
あの、大人の桃子さんが泣いている。
私の目の前で、まるで子供のように涙を流している。
だから、このお話は嘘ではないのだと思った。
……そりゃそうだ。
桃子さんは嘘はつかない。
桃子さんはいつだって、真面目で、誠実な、……誰よりも信頼できる大人の人なのだから。
「……う」
鶴はその胸にとても強い痛みを感じた。
それから鶴は桃子さんと一緒に、両手で顔を覆って、テーブルの上で泣き始めた。
悲しくて、悲しくて、仕方がなかった。
自分の心がばらばらになってしまうのではないかと、泣きながら鶴は思った。
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