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「今日は鶴さんにお渡しするものがあって、こちらに立ち寄らせてもらいました」と桃子さんは言った。
「私にお渡しするもの?」
鶴は言う。それはいったいなんだろう?
「実は私は、竹内家のメイドを最近になって辞めて、京都を離れて、実家のある北海道に帰ることになったんです」
「北海道ですか?」
「はい」
桃子さんは言う。
「今日はその旅の途中に、東京にいる鶴さんのマンションに立ち寄らせてもらいました。失礼かとは思ったのですけど、先ほど言ったように、どうしても鶴さんにお渡ししなければならないものがあったので、ここの住所は鶴さんのご両親にそのお話をして、お聞きしました。申しわけありません」
桃子さんは、まるでメイドさんをしているときのように、鶴に丁寧に頭を下げる。
「いえ、そんな構いません」
鶴は言う。
「それで、私に渡すものってなんですか?」
「これです」
桃子さんはそう言って自分のバックを開けると、そこから一枚の真っ白な封筒を取り出した。
なにも文字が書かれていない封筒。
でも、ちゃんと封は閉じられていて、中にはなにかが入っているように見える。
「これはなんですか?」
鶴は言う。
「菫お嬢様のご遺言です」
桃子さんが言う。
鶴は最初、その言葉の意味がよく理解できなかった。
「……菫の、ご遺言?」
「そうです。私はそのご遺言を届けるために、鶴さんのところにやってきたのです」と桃子さんは言った。
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