14
竹内家のお屋敷の玄関前。
そこで二人は本当の「さようなら」を笑顔でした。
鶴はお茶会にやってきたときのように桃子にドアを開けてもらって、リムジンの中に乗り込んだ。桃子さんが反対側のドアからリムジンの中に乗ると、リムジンは音もなく地面の上をゆっくりと走り出した。
二人の距離が、だんだんと離れて行った。
鶴は絶対に後ろを振り返らないと、笑顔のさようならのときに、心に決めていた。でも、鶴は結局、後ろを振り返ってしまった。
泣きながら、後部座席の窓越しに、鶴は菫の姿を見た。
すると、遠くにいる菫は、身をかがめて、地面の上で小さくなって、鶴と同じように泣いていた。
……ばか。強がっちゃって。いつもそうなんだから。
子供のように泣いている菫を見て、同じように子供のように泣いている鶴は、そんなことを小さな子供のように思った。
桃子さんはずっと無言だった。
そんな、桃子さんを見て、桃子さんは大人なんだな、と鶴は思った。
リムジンが竹内家のお屋敷の敷地内の外に出た。
鶴はもう後ろを振り向いてはいなかった。
これからは、ただ前だけを向いて生きよう。
鶴はそう自分の心に誓っていた。
その誓いを、鶴は早速、守っていた。
鶴の背後で、竹内家の大きな門が、まるで鶴を拒絶するように自動で閉まった。
「さようなら、桃子さん」
恩田家の前でリムジンから降りてから、鶴は笑顔でそう言った。
「はい。さようならです。鶴様」とにっこりと笑って桃子さんは言った。
「でも、永遠のさようならではありません」
桃子さんは言う。
「永遠のさようならではない?」鶴は言う。
「はい。……きっと、私と鶴様は近いうちに、もう一度、どこかでお会いすることになると思います」
桃子さんはそんな予言のようなことを言った。
鶴は桃子さんは菫のように変な冗談を言ったりする人ではないことを知っているので、その桃子さんの発言がなんだかとても奇妙に思えた。
でも、結局、その桃子さんの予言は当たった。
鶴はこのあと、きちんと真面目に名門私立秋桜学園に通い、優秀な成績で学園を卒業して東京の大学に進学した。
そして、二年が過ぎて、鶴が二十歳の誕生日を迎える直前のころ。
鶴の暮らしているマンションに一人の女性が訪ねてきた。
それは本当に久しぶりに会う、清宮桃子さんだった。
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