12
「嘘?」
鶴は眉をひそめる。
「うん。嘘。私、転校なんてしないの。秋桜学園はやめるけどね」
鶴を見て、にっこりと笑いながら菫が言った。
「学園はやめるけど、転校はしない?」
「そう。しない」
「じゃあ、菫はいったいなにをするの?」
鶴は言った。
「私は結婚をするのよ。すごいでしょ?」
まるで子供が自慢をするみたいに胸を張って、菫は言う。
そんな菫の仕草と、それから言葉を聞いて、鶴はなんだか混乱してしまった。私はもしかして菫にからかわれているのだろうか? もしそうなのだとしたら、それはいったいいつからだろう? と、そんなことを鶴は思った。
「一応言っておくけど、からかっているわけじゃないよ」と菫は言った。
言葉にしなくても、鶴の考えていることは、菫にきちんと伝わっていたようだった。
「菫。あなた結婚するの?」
鶴は言った。
「そうだよ。それで学園もやめることになったの」菫は言った。
「誰と結婚するの?」
鶴は言う。
「藤原薫さんって男の人。年齢は二十歳で、私の二つ年上の人。写真あるけど、……見る?」
「見る」
鶴は即答する。
すると菫は持っていた小さなバックから一枚の写真を取り出して、それを鶴に手渡してくれた。
鶴はその写真を見る。
そこには一人の、とてもかっこいい(いかにも京都のお金持ちのお坊ちゃんって感じの)一人の男の人の姿が写っていた。
「性格もすごくいいんだよ。この間、一度会ったときに、二人だけでお話をしたんだけど、すごく紳士的な人だった」菫は言った。
「一度?」鶴は言う。
「そう。一度。私、薫さんにはまだ一度しか会ったことがないの」菫は言う。
「一度しか会った頃がない人と結婚するの?」
「結婚って、そういうものよ」鶴を見て、菫は言う。
「もともと私と薫さんは親同士が決めた許嫁の間柄だし、結婚の約束自体は、私たちが本当に小さい子供のころにもう決まっていたことだし、……それに本当に結婚が嫌なら、断ることだって、一応、できるしね」
なら、断っちゃいなよ。と鶴は思った。
でも、それを言葉にすることはしなかった。
なぜなら、きっと菫も同じようなことを思っているのだと言うことが、あえて言葉にしなくても、菫の親友の鶴にはちゃんとわかったからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます