11 愛を語りませんか? ……本当の愛を。

 愛を語りませんか? ……本当の愛を。


「お屋敷の庭を、お散歩ですか?」

 玄関のところで桃子さんがそう言った。

「うん。少しだけ、鶴と一緒に、二人だけでお庭をお散歩したいの。いろんなお話をしながらね。いいでしょ? 桃子」

 にっこりと笑って、菫が言う。

 すると少し間をおいてから、「はい。かしこまりました。菫お嬢様」と言って、いつものように桃子さんは菫に向かって、丁寧なお辞儀をした。

「鶴様。菫お嬢様をよろしくお願いいたします」

 それから桃子さんは鶴を見てそう言って、やっぱり、丁寧なお辞儀をした。

「はい。わかりました」

 鶴は言った。

 それから二人は、竹内家のまるで森のような広いお庭の中をゆっくりと歩いて散歩を始めた。

 少ししてから鶴が竹内のお屋敷のほうに顔を向けると、そこにはまだ、玄関の前のところに立って、二人のことをじっと見つめている、小さな桃子さんの姿が見えた。


「いいお庭でしょ? 自慢のお庭なんだよ。ここ」

 菫が言う。

「うん。すごく素敵なお庭だと思う」

 それはお世辞ではなくて、本当に鶴はそう思った。まるで昔、本かなにかで見たことがあるベルサイユ宮殿のお庭のようだと鶴は思った。

 それから二人はしばらくの間、そんなお庭を見ながら散歩を楽しんだ。

 そして大きな噴水が見えるところまで来ると、その前にある白いベンチに腰を下ろして少し休憩をすることにした。

「どうして、転校のこと言ってくれなかったの?」

 そこで、鶴は自分の本当に聞きたかった話を切り出すことにした。

 答えてくれなくてもいい。なにか私には言えない事情があったのだとは思う。このお茶会が、菫の私へのそういう気持ちのあらわれなんだということもわかる。

 でも、どうしても聞きたかった。

 鶴は菫の顔を見た。

 すると菫はにっこりと笑って、「転校って話。本当は嘘なの」と鶴に言った。

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