14 絶対にその手を離さない。

 絶対にその手を離さない。


 まりもは一人で、小道さんと同じように、橋の手すりによじ登った。

 そのまりもの行動に最初、誰も気がつかなかったのだけど、まりもが橋の手すりの上に両足で立ち上がったとき、警察のかた一人が、まりもの行動にようやく気がついた。

「君! やめなさい!!」

 四十代くらいの警察のかたがそう叫んだ。

 その瞬間、木ノ芽さん夫妻と、もう一人の若い二十代くらいの警察のかたが、まりもに一斉に目を向けた。

 でも、まりもはそちらに目を向けなかった。

 まりもはずっと、ただ荒れ狂う川の様子だけに目を向けていた。

 そしてまりもは迷わずに、橋の手すりの上から、ジャンプをした。

 そのとき、世界がスローモーションになった。

 少なくとも、まりもにはそう思えた。

 ……そして、あ、もしかして私、……このまま死んじゃうのかな? と思った。でも、自分の行動に後悔はなかった。

 まりもはどうしても、大きな川の水の流れの中に飲み込まれてしまった朝顔と紫陽花を助けたかった。

 そして、できることならもう一度、あの、輝くような小道さんの笑顔が見たいと思った。

 だからまりもは荒れ狂う川の中に飛び込んだ。

 それが倫理的にも、常識的にも、間違っているとわかっていた。

 でも、まりもはそうした。

 それはまりもの本能だった。

 まりもの魂の選択だった。

 だから、まりもは自分の行動に後悔なんて、ちっとも、一ミリも、してなんてはいなかった。

 どぼん!! という音がした。

 そして、まりもの世界は真っ暗になった。

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