第2話
とてもとても寒い日だったわ。
こうも寒いと太陽さんは早めに帰宅の準備を始めてしまう。
私はそんな太陽さんを眺めながら砂浜を歩いていた。
砂浜の冷たさは、何もみにつけていない足には少し酷だったみたい。
私はあまり感じなかったのだけれど、紅は足先にどんどん散りばめられていった。
するとまたあの歌声が聞こえてきたの。
私は走ったわ。
そうしてまた、夕陽に溶けてしまいそうな髪の彼と会えた。
今度は彼は立っていたわ。
私よりも背が少し高いかしら?
そんな事を思いながら私はしばらく彼の歌を聞いていたの。
でもね、彼の歌はこの間と少し違った。
とても悲しそうで暗い色をしていたわ。
彼の想いが全部全部全部詰まっているような歌。
私は泣いてしまった。
だって余りにも陰鬱で憎しみや辛さが直に伝わってきてしまったんだもの。
そんな私を見て、彼は歌をやめて声を掛けてくれた。
「どうして泣いてるんだ?」
歌声と同じ、とても綺麗で心に広がる声だった。
なのに、どこかへ行ってしまいそうな危うさと儚さを携えた声。
優しいのに辛い。
安心するのに不安になる。
そんな声だったわ。
「だって、貴方が余りにも悲しそうな歌を歌うから。余りにも辛そうに歌うから」
私の言葉を聞いて彼は目を細めて言ったの。
「ごめん。きみを泣かせるつもりはなかったんだ。またあの時みたいに楽しそうに歌っているきみが見たかったのに」
彼が下を向いてしまったから私は彼の足元にしゃがみこんで彼を見上げた。
なんとも言えないような顔をしていたわ。
悲しみと自嘲。
自己に対する否定。
私に対する暖かいもの。
この世界に対する愛と憎悪。
色んな彼の感情は彼の涙が私の頬に落ちた時に全部感じた。
「貴方は、この世界を愛しているのに憎んでしまったのね?」
私が問いかけると彼は少し驚いた顔をしてそれから笑ったの。
彼の目は、しっかりと私を捉えていた。
「きみは、いつも美しいな」
そんなこと言われたの初めてだったから照れちゃうじゃない?
私は自分の顔に紅が差すのを隠すように顔を背けた。
「あら、まだ二回しか会っていないのに?」
そう言ってみたけれど、私の照れ隠しは必要なかったみたい。
だって、空には綺麗なお月様が浮かび始めていたんですもの。
私は誰もいなくなった砂浜で一人。
海を見つめて泣いたわ。
静かに。
波の音に掻き消されてしまうくらい小さな声で。
さっきまで彼が歌っていた歌を歌いながら。
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