第5話


ようやく終わりが見えてきたみたい。

ちょっぴり寂しいわ。

「さぁ、Mademoiselle。夜空の散歩は終わりが近づいてきたみたいだ。次は何をしたい?どこに行きたい?」

「そうね…この世界と、おさらばしたいわ」

「……と、言うと?」

「私はね、やっと主人公になれたのよ。貴方の紡ぐ物語の主人公。私は、ずっとなりたかった主人公になれたの。貴方が物語を紡いでくれたから。語ってくれたから」

「…それなら尚更。どうしておさらばしたいなんて言うんだい?僕はキミとさよならしたくない」

「私だって同じよ、Monsieur。でもダメ。このまま一緒にいても貴方にはなんのメリットもないじゃない?」

「あるよ。僕はキミの笑顔が見たいんだ。キミが笑顔で居られるなら僕はなんだってするよ。面白い話だってする。月にだって連れて行ってあげる。星を丸々一つあげることだって出来る。キミは僕といれば何にだってなれるんだ」

「まぁ素敵!!…でもね、その対価はなぁに?物事には何においても対価があるはずよ。貴方が私にそうしてくれることに対しての対価。私は何を差し出せばいいのかしら?」

「先程から言っているだろう?僕はキミに笑顔でいて欲しいんだよ。………どんな世界においても綺麗で美しく、何にも穢される事の無いものが二つある。分かるかい?」

「いいえ、分からないわ」

「夢と、芸術さ」

「夢と芸術?」

「そう。キミは僕の夢だ。そしてキミは僕の芸術作品でもある。そう。キミは僕にとって綺麗で美しく穢れない純白そのもの」

「あら、嬉しい事言ってくれるのね。でも私は貴方が思ってるような完璧な芸術作品じゃあないわ」

「芸術は完璧ではダメなんだよ。欠けている、不完全だからこそ美しいんだ」

「貴方は私を愛しているの?」

「まさか。そんな人間が使うような陳腐な言葉じゃ言い表せない。僕のキミに対する想いは、きっとキミには理解できない。なんせ、この言葉をキミは知らないから。聞き取ることも出来ないからね」

「それは残念。ねぇMonsieur?なら尚更私はここでさよならしなくてはならないのではないかしら?」

「どうしてそうなるんだい?」

「不完全が美しいからよ。このままだと終わってしまうわ。完成してしまうわ。それはダメでしょう?」

「だから終わらないように次の物語を紡いでいくんじゃないか。月の湖で人魚と絵を描こう。太陽の森林で妖精と歌を歌おう。星の雨と共に、僕とワルツを踊ろう」

「どうもありがとう。ありがとう。でもね?次は、私の番なのよ」

その言葉を聞いた男はとても悲しそうで、けれど嬉しそうな顔をして笑ったわ。

その男の口元に浮かんだ三日月は、もうちっとも不気味じゃなかった。

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