第4話


余りにも長い月日をこの男と一緒に過ごした気がするわ。

私達はまだ夜空を歩き続けていた。

私はもう自分は人間ではない、と思い込んでいたのね。

でもある日自分の手を見てしまった。

そうしたら、しっかり指が五本も生えていたの。

驚いたわ。

足元を見てみた。

そうしたら、しっかり足が二本も生えていたの。

それから自分の身体を触ってみたけれど、余りにも人間みたいな感触がするのよ。

不安になって男を見たの。

男の目に映った私は、あの頃のままの私だった。

人間だったの。

しっかり、人間だったの。

弱くて、脆くて、どうしようもない人間。

結局私は人間のままの見た目だったみたい。

人間じゃないような気がしていたのは気のせいだったのかしら?

残念な気持ちが心の中を支配していた。

だから私は男に訪ねたわ。

「ねぇ?私は人間に見える?」

そう言った私を見て男はとても真剣に言ってくれたの。

「キミは人間なんかじゃないよ、Mademoiselle。キミは何にだってなれるんだ。人間なんて低俗なものじゃない。ただ今は入れ物として''それ''を借りているだけだ。大丈夫。僕といればキミは人間じゃない」

その言葉を聞いてどれ程安心した事かしら。

人間じゃない。

そう、人間じゃないの。

じゃあなに?と聞かれてもそんな些細な事はどうでもいい事。

男が人間じゃないって言ってくれたんだもの。

それだけで私には十分だったのよ。

男が私を『Mademoiselle』と呼んでくれる限り、私は''なにか''でいいの。

男の中には私という概念しか、存在しないのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る