第4話 異世界に飛ばされた祖父母の家の庭もまた異世界でした。

「お、お兄ちゃん、どうするの?」


明莉が俺の方を向いて尋ねる。いや、そんなこと俺にもわかんねぇよ。どうしたらいいの? 元の世界には帰れないのか?


「お、お兄さん?」


お、おっと、ネガティブな妄想をしてたせいで明莉と葵のことを放っておいたまんまだった。ここは年長者として気丈に振る舞わなければ。


「大丈夫だろ! テンプレなら世界救ったら元の世界に戻れるとかいうのだからさ」


まぁ、俺はそんなテンプレ小説読んだことないけどさ。


「そ、そうなの? 私達にはわからない世界ね」


「う、うん。私も初めて聞いた」


まぁ、そりゃ適当言ってますから聞いたことなくてもしょうがないよね。


「とりあえず今日は早めに寝よう。なんか頭こんがらがって訳わかんないや。あっ、お風呂はもう洗ってるからお湯入れてくるな」


こういう時には一旦寝るに限る。現実逃避が安牌だ。多分。


『みゅーー!』


ん? なんだなんだ? 真っ白いぷよぷよの生物がお尻を振って客間に飛んでった。


・・・ついて来いってことなのか?


一応、明梨と葵はその場で待機するように指示し、俺は謎の生物について行く。


『みゅーー! みゅー! みゅー!』


謎の生物は俺がついてきているのを見るとまたお尻を振って客間を通り抜け、縁側へと進む。俺はまたそれについて行く。


『みゅー! みゅー!』


縁側まで行くと謎の生物は庭へと続く縁側のガラスの引き戸にポヨンポヨンと突撃する。開けろってことなのか?

ちなみにガラス戸の奥では雨戸が閉まっているため外の風景は全く見えない。


・・・怖いなぁ。俺たちを助けてくれたにせよ見たことも無い謎の生物だ。それもここは異世界。


まぁ、なるようになれってことか。


俺が意を決してガラス戸を開けるとそこには俺が想像もしない風景が広がっていた。


どんな風景かって? んー、言葉では説明しずらい。まぁ、とりあえず地平線が広がってる。地面は芝生でおおわれていて、少し遠くに大きな木が1本生えている。

でも、扉の周りには手頃な石がコロコロといくつか転がっている状態だ。


でも、なんでだろう。なんて言うか微かに海の匂いがする気がする。ほんとに微かだから俺の鼻がバグったのかも知れない。


「な、なんなんだ? これ・・・」


俺が呆然と立ち尽くしていると謎の生物はぷよんぷよんとホバリングして俺を手招きしているように見えた。


俺がそれに従い庭? へと出ると急にガラス戸がバタンっ! と閉まってしまった。


「えっ!? ちょっと!」


焦った俺はガラス戸を破壊しようと手頃な石でガラス戸をぶっ叩いたり、石をぶん投げたりするもビクともしない。


アッ、ツミマシタワー


「積んでませんから安心してください」


なんか後ろから優しい声が聞こえてきた。てか、なんかこの声聞いたことあるような気がするぞ? どこでかは思い出せないけど。


俺が振り向くとそこには絶世の美幼女が!

ライトグリーンのロングヘアーで、少しウェーブがかかっている。顔は少し幼いながらも「綺麗だ」と思える大人っぽさも持っている。てか、黒目の色が赤ってなんか怖い。


あれっ? てか、そう言えば謎の生物は?


「あぁ、それ私ですよ! わ・た・し!」


いや、誰ですか? って言いたいけど言えない。俺が何も発しないことで美幼女と俺の間にビミョーな雰囲気が流れ出す。


「あ、あのぉ、なにか反応してもらってもいいですか?」


そんな雰囲気に耐えかねた美幼女が俺に話しかけてくる。


「え、えーと。あなたは誰ですか?」


俺がそう尋ねると幼女は嬉しそうな顔をして俺の周りをスキップし始めた。


「んーー! そうですねぇ。今は名前はありませんよ。 何者か、という問いには答えましょう! 私は! なんと! この世界の管理者ですっ!」


幼女がででん! と後ろに文字が出そうなドヤ顔で無い胸を張る。


「え、えーとですねぇ。この世界ってどの世界ですか? 俺って異世界に飛ばされて来たみたいなんですけど、この異世界の管理者なんですか?」


俺がそう尋ねると幼女はしまった!というふうな顔で口に手を当てる。


「あっ、すみません。この世界の説明がまだでしたね。はい、お答えしましょう!

『この世界』というのは元々この家の庭だったはずの空間、つまりは私たちが今居るここのことを指します!

確かにあなた達を飛ばしたのはあなた達の言う異世界の支配者である女神です。ですが、この世界はその世界とは全く別のこれまた異世界なのです!」


な、なるほどね。俺は異世界に飛ばされて、そのまたさらに異世界に侵入したと。


・・・めんどくせぇ。


「それでですね! なにか私をみて思い出しませんか!? よーく見てくださいね! よーーく!」


え、えー。そんなの何も・・・あっ!


「そうだ! なんか明莉と葵が幼い時を足して2で割ったような雰囲気がする!」


どうだ! 正解だろ! なんかこの世界は過去を司ってたりして、家族と会えるとかなんとか!


「ぶっ、ぶーーー! 違いますよ! ふざけないでください!」


「えっ? 違うの?」


「えっ? 本気で言ってたんですか? ちょ、ちょっと! そのスマホを見せてください!」


「えっ? 別にいいけどさ」


ちなみに、俺はかなりのスマホ廃人なのでスマホを手放すことはほとんどない。まぁ、明莉や葵の前では見栄張ってほとんど弄らないし、弄らなくても楽しいから問題ないんだよな。


俺はポケットからスマホを取り出し、自称管理人の幼女に渡す。


「えーっと、えーっと。 ほらっ!あるじゃないですか!」


そう言ってスマホを俺の前に突き出してくる美幼女。

ん? あっ、これアルテミスオンラインじゃん。俺の一時期ハマってた一風変わった育成ゲームじゃん。いや、育成と言うよりはRPGって言った方がいいのかな? いや、シュミレーションゲームかもしれない。


基本的にキャラを育てて冒険するんだけど、その目的が拠点を開発するってやつなんだ。

その拠点ってのがなんか牧場シュミレーションゲームみたいに畑だったり牧場だったりを建てるんだ。それで素材を取って売ったりしてお金を稼ぐんだ。


でも、このゲームの醍醐味はそうじゃないんだ。

キャラがとにかく可愛いんだよっ! 分かる? 分かるよね? 男なら分かるよね? だって着せ替え機能とかもあるんだよ? スマホゲーの癖に個体値とかあるんだよ? どのステータスにどれだけ割り振るかみたいなの決められるんだよ? こんなのやり込むでしょっ!


「このゲームがどうかしたのか?」


俺はそんな興奮を胸に秘めながら努めて冷静に対応する。


「わたし! ほらっ! 私このゲームのチュートリアル担当してますよ! ほらっ! 」


・・・あーーーーっ! そう言われればそうだ! 確かに瓜二つだし声もそのまんまだ!


「ふふーん! 気づいたみたいですねっ!

この超激レアの私に!」


そうなんだよっ! こいつ課金じゃ絶対に手に入らないキャラなんだよっ!

クエストにフレンドを連れていった時に貰えるフレンドポイント。それを使って引けるフレンドガチャ。それで約0.01パーセントの確率で出現するキャラ。それがこいつなんだ!


「ふ、ふざけんなァァァっ!」


ちなみに俺はやり込んだにも関わらず未だ一体も引けないでいる。


「な、なんなんですか! ほらっ! あなたの追い求めていた私ですよ!」


「いや、お前ふざけんなよ! なんであんだけ引いて一体も出ねぇんだよ!」


「わ、私に言わないで下さいよ! そんなの私が決めることじゃないですし!」


ま、まぁ、確かにそれはそうだ。言いすぎたな。


「と、とりあえずですね! ここはその世界の拠点となる世界なんです。

それで、あなたにはこの世界の支配人になって貰います!

あっ、ちなみにガチャも回せますよ。フレンドガチャとプラチナガチャごっちゃになってますけど」


・・・なんか、俺この世界で楽しく過ごせるようなきがしてきた。


「ふむふむ! 感触は良くないみたいですね! では! 早速ですが私に名前をつけてください!」


そ、そう言えばそうだったな。このゲームは全てのキャラに自分好みの名前が付けられる。まぁ、デフォルトの名前があるから付けなかったらそれになるだけなんだけどね。


「では、くそ女神ということで」


「ちょ、ちょっと待ってください! それまだ私怨が篭ってますよね!?」


おーっと、これは失敬。なにぶんこのキャラには苦労させられてるもので。


「んー、デフォルト名でもいい?」


「えー! 私は支配人が付けた名前がいいですね!」


うーむ、難しくなってきた。ゲーム内の名前ならば適当に決められたんだが。目の前にいるとそんな簡単には決められないよね。

嫌いなキャラにはクソビッチとかいう名前付けてた友達もいたし。


んー、確かこのキャラ完全に観賞用のキャラでクソ雑魚だったんだよなぁ。

木属性の後衛キャラなんだが後衛にしては異様なほど物理攻撃が高くて、耐久と特殊攻撃に関しては紙なんだ。


そんでスキルは3つあるんだが、1つ目がバインドっていう相手を一ターン行動不能にする効果を低確率で全体に付与ってやつ。

まぁ、これは言わずもがな確率が低くクソ。

2つ目は味方全員の攻撃に100%の木属性の相乗攻撃を載せるっていうかなり有能なスキル。

そして3つ目。これがこのキャラ最大の弱点。味方の木属性の攻撃は水属性以外全てに半減されるというパッシブスキル、つまり常時発動のスキルだ。

はぁ、このスキルさえなければ色んなクエストの適正に慣れたのになぁ。

まぁ、一応適正クエストはいくつかあったけどそれでも倉庫番の枠を出なかったなぁ。


まぁ、そんなことは置いといて。名前かぁ。うーん。単純に緑だからエメラルドとか? いや、さすがにそれは単純すぎる。瞳は赤なんだよなぁ。だからエメラルドとルビーを合わせてエビーとか? エルとか?


・・・ルル! これいいんじゃね? エメラルドどっか行っちゃったけど良いんじゃね!?


「ルル、ってのはどうかな?」


俺はドキドキしながら幼女の反応を待つ。


「・・・いいと思います! 私はルルです! 気に入りました!」


よ、良かったァァァァァ! 気に入ってもらえた! これが駄目だったらエビーちゃんになってたからな!


「いやー! 思ったよりもいい名前ですね! あっ! 私との契約特典が来てますね。わぁ、畑ですよ! 毎日収穫できる見たいですよ!」


「えっ? もしかして、ここで収穫とか出来たりするの?」


「えぇ、勿論です! 今は私しかいませんから私が丹精込めて育てますよ! あっ、ちなみに操作はそのスマホからお願いしますね。あと、バッテリーはもう一生消えませんので安心してください!」


な、なんか色々情報が入り込んできて、パンクしそう。と、とにかく、アルテミスオンラインと同じ操作をすればいいんだな?


えーっと。おお! これがこの世界の全貌か! てか、限りないんだ。この世界。いくらスワイプしても画面が止まらない。てか、あの木でか過ぎない? かなりの面積があの木で埋まってるんだけど。


って。あっ、やっぱり玄関の方は海が広がってるのか。なるほどなるほど。


んで、今回入手したのは? おっ、あったあった! 畑! これを・・・まぁ、遠ざけるのもめんどくさいし1番近くに建てちゃおう。えいっと。


ボンッ!


「うおぉ! マジで畑だ!」


「はい! マジで畑です! では、何を育てますか? まぁ、ここはゲームと同じで苗は最初じゃがいもとトマトときゅうりが10個ずつありますね」


まぁ、ここはあのゲームを無視していいだろう。とりあえず1つの畑に6つまで苗が植えれるから、全部2つずつ植えておくか。


「はい! お疲れ様です! では、次にあの木について説明しましょうか」


おっ、やっとこさあの木について触れるんだな! よし! ドンと来い!

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