第3話 どうやら美少女は人騒がせな馬鹿だったようです
えーっと、誠に申し訳なかった。聖者様。どうか私達の世界を救っていただけないだろうか?」
金髪ポニーテールの美少女さんが微妙な顔をしながらぺこりと頭を下げる。なんかあの女神のせいで全てにおいてだらけた雰囲気が漂い始めた。
んで、世界を救うことなんだけど。なんだかなぁ。こんな目に会わされて国を救おうなんて考えるやついるのかねぇ? 俺は白い謎の生物を抱きしめてぷよぷよしながら考える。
「お兄ちゃん! 私達聖女だって! この国を救いしょうよ!」
居たー・・・。明莉、高校生になっても厨二病を引き摺るのは痛すぎるぞ。
「んー、俺は正直反対だな。この国を救う義理もないし、救う利点もない」
「私もお兄さんに賛成です。そもそもあんな女神を信仰している人達がまともだとは思えませんし、実際まともじゃありませんし」
おうふ、葵は結構辛口だな。金髪ポニーテールさんもちょっと俯いてる。
でも、確かに見知らぬ異世界人に許可も取らずに命懸けの旅をさせようとさせてる時点でまともじゃないし、人の家に土足で上がり込んで槍を向けるとかもう犯罪者じゃん。
「というか、あなたは誰なんですか? 私達、あなたの名前も何も知らないんですけど」
あっ、確かにそうだ。まぁ、それどころじゃなかったし仕方ないよね。でも、葵がなんかトゲトゲしてるんだけどどうしたんだろう。
「あぁ、そう言えば自己紹介がまだだったな。私はブライト王国、騎士団、第2隊隊長ミスティ=ラブレだ。よろしく頼む」
そう言ってミスティさんが頭を下げる。フーム、この国はブライト王国って名前なのか。んで、どっちが姓でどっちが名なんだ?
「えーっと、ミスティさん? 俺は遠見司です。よろしく」
「トミーツカサか。よろしく頼む」
んー? 今聞き間違えかな? トミーって言わなかった? 一応訂正しておくか。
「いや、と・お・み! 司です」
「ん? だからトミー司のだろう?」
「ぶふっ!」
・・・完全にトミーって言ってるよな? なにその中途半端に外国人風な名前。
てか、今明莉吹いてたけどおめぇも大概な名前してるからな。
覚悟してろよ。葵は自分も同じ境遇なのでプルプルと震えている。女の子がトミーはキツイよな。ここは葵の為にもなんとか強制せねば。
「トミーじゃありません。とおみです」
「むーっ! わからん! 今日からお前はトミーだ!」
あっ、この人かなり馬鹿だ。頭まで筋肉のひとだ。そもそも女性で隊長なんかやってる時点で気づくべきだったよ! こんちきしょう!
てか、そういや和食の説明の時も1人でなんか訳の分からん解釈してたな!
「いえ、遠見です」
「なんだこいつは! 頑固なやつだ!」
「頑固な馬鹿はおめぇだよ! こんちきしょう!」
あっ、やっべ。思ってたことが口から滑りでちゃった。なんかミスティさんがプルプル震え出しちゃったよ。
「お、お前、私のことを馬鹿にしたなっ!」
いや、だってバカでしょうよ。脳まで筋肉の鳥頭以下だと思うんです。だって人の名前も覚えられないんだぜ?
「なら、お前に問おう! 7×4は幾つだ!」
「えっ? 28ですけどなにか?」
んー! 香ばしい! 馬鹿の匂いがプンプンしますねぇー!
「な、なに! こんな早くに7の段が言えるだとっ!! 私は昨日8の段を覚えたばかりなのにっ!」
あっ! やっぱり馬鹿だー。この人対等に何話しても通じない人だー。こういう人は上から押し付けるように説得するのが手っ取り早いんだよ。
「じゃあ僕から問題です。1から10までひとつずつ足していったら合計幾つですか?」
これはそろばんをやってる人なら1度は通る道だ。そろばんでこれやるの最初の方は結構難しいんだよなぁ。
「えーっと、いーち、さーん、ろーく、じゅーう? えーっと、じゅうご! えーっと、、、」
やっべぇ、これめちゃくちゃ時間かかるな。時間制限設けるか。
「あと30秒で答えてくださいねー」
「な、なにっ! そんなの聞いていないぞ! あっ! どこまでやったか忘れた! 汚いぞ!」
もうやだこの人馬鹿すぎる。
「わ、わかった! 49だろう! ふふん! どうだ! 私でもこれくらい出来るんだ!」
30秒ちょっとすぎの時点でミスティさんが胸を張って間違った答えを答えた。
時間も過ぎてるし、答えも違うしここまで完璧なゼロ点取ろうと思って取れるかどうかだよ・・・
「・・・とりあえずミスティさんじゃ話にならないのは分かりました。ちゃんとした人を紹介して下さい」
俺がそう言うとミスティさんはありえないっ!というふうな目で俺を見てくる。
「わ、私の何が不満だと言うんだ! 答えもバッチリだったはずだ!」
「さっきの問題の答えは55です。てか、どうやったら49になるんですか。なんで6が抜けちゃってるんですか。バカでしょ」
「そ、そんなはずはない! 私はちゃんと指折り数えて足し算したんだ!」
いや、もう指折って数えてる時点でバカでしょ。なんなの? もう。
俺がミスティさんの頭の悪さに頭を抱えているとそこに救世主が登場した。
「うーっす失礼すんぞー! おっ? なんで、ここに履きもんなんか置いてんだ? まぁ、一応失礼になってもいけねぇし脱いでくか」
あっ! この人まともな人だ! てか絶対頭いいよ! ミスティさんのことはこの人に頼もう。
そんな期待を背負って現れたのは身長2m級の大男だった。へー、やっぱり人は見た目によらないなぁ。その大男は一礼して、キッチンへと入ってきた。
「おーう! ミスティ! てめぇ、聖者様と聖女様に失礼なこたぁしてねぇだろうなぁ!」
「はい! 教官! 礼儀は騎士の嗜みですから!」
んーん? まずはそこからなのか。というか、めちゃくちゃ失礼なことしてますよ! その人! 俺の名前勝手に変えようとしたからね!
「違ぇよ! 騎士たるものは礼儀がなってなきゃやってらんねぇんだよ! 嗜みの意味も分かっちゃいねぇのかてめぇわ!」
「はいっ! 申し訳ありません!」
あぁ、ミスティさんが馬鹿なのは俺達の前だからって訳じゃないようだ。隊長さんが「全くこいつはいつもいつも」ってため息着いてたからな。
「あー、聖者様、聖女様。すまねぇ。俺は騎士団第一隊副隊長ディール=デイスだ。よろしく頼む。早速だが、こいつが何か失礼なことをしなかったか?
あっ、いやいい。したんだろうな。あんたらの顔を見てたら分かるさ。こいつの馬鹿に苦労した奴らは何人も見てきてるからな
んで、こいつがなにをしたのか聞いてもいいか?」
まぁディールさんも敬語とかは全くないけど、俺たちに対して敬意を払う必要も無いからいいんだろうな。
「どうも、初めまして遠見司です。まぁ失礼かは分かりませんが、名前を勝手に変えられそうにはなりましたね」
「はぁ、また人の名前を間違えといて自分の解釈を押し付けようとしてんのか。このバカは。後でキツく叱っておくから許してやってくれ」
ディールさんが叱るって言った瞬間ミスティさんの体がビクってした。多分怖いんだろうな。だって見るからに怖そうだもん。
「あー、あと良ければ聖女様達の紹介も頼めるか?」
ディールさんの呼びかけに最初に応じたのは葵だった。
「は、はい、私は遠見葵です。お兄さんの従姉妹です。よろしくお願いします」
葵はぺこりと行儀よくお辞儀をする。清楚な感じがいいね。
「えーっと、私は樫木明莉。同じくお兄ちゃんの従姉妹。よろしく」
なーんか、明莉はギャルっぽいんだよなぁ。確かに茶髪だし、メイクガンガンだし。ギャルっちゃギャルなのか? まぁ、これはこれで従姉妹としては可愛いんだけどね。
「あぁ、よろしく頼む。あー、あとすまないな。ここは土足厳禁なんだろ? こいつら馬鹿なんでそんなの全く気にしねぇんだわ。後で特級のクリーンかけとくから勘弁してくれ」
えーっと、よく分かんないけど掃除してくれるって事なのかな?
「あっ、はい。分かりました。こっちは大丈夫です」
「そうか! 助かるぜ。あと、報告ではなんか大事な儀式を行ってたらしいんだが・・・」
ディールさんがバツが悪そうな顔をして質問してくる。いや、まぁ、それも勝手にミスティさんが突っ走っただけなんだよなぁ。
ってことで、簡潔にディールさんに説明する。
「あー、なるほどな。わかった。つまりお前らは飯を食っててその途中に俺たちが呼び出しちまったってわけだ。
それは申し訳なかった。確かに飯の邪魔されたら腹立つもんなぁ」
「いえいえ、こちらもただの食事を大袈裟に表現してしまった点もありますし」
「いや、お前らに汚点はねぇよ。全てこいつが馬鹿なのがいけねぇ。あっ、そんなことよりおめぇらの食ってる飯に興味があるんだが少し分けてもらうことは出来るか?」
あー、ディールさんもなんか食事にこだわりを持ってたのかな? だから俺の事情を深く受け止めてくれたのだろうか?
なら、ここは受け入れる他ないだろう。日本のお米、いや、和食の良さを異世界にも広めてやる!
「えぇ! 勿論です!」
「みゅー!」
おっ、どうやら謎の生物も興味があるようだ。後で食べるか分からないけど食べさせてあげよう。
「おぉ! ありがてぇ! じゃあ明日の昼にミスティを送り込むからご馳走してやってくれ!
台無しにした飯がどれだけうめぇか知ったら、お前の名前を間違えるなんて出来ねぇだろうしな!」
えぇー、ミスティさんですかぁ? ちょっと御遠慮・・・いや、いいだろう。俺の事をトミーにした罰は受けてもらおう。
「分かりました。腕によりをかけて作らせていただきます」
「えっ? お前が作るのか? そこの聖女達がつくるんじゃねぇの?」
はっはっはっ! ご冗談を! この子達に作らせたら生煮えのお粥とじゃくじゃくのカレールーで出来たカレーライスを食わされることになりますぜ?
「おうふ。なんかそっちでもお前は苦労してるみたいだな。まぁ、頑張れよ」
「・・・はい」
ディールさんが俺の肩を同情のこもった笑みを浮かべてトントンと叩く。
「んじゃ、俺たちゃ失礼するぜ。おっし! クリーンは俺がかけるからおめぇらは出来るだけ家ん中汚さねぇように素早く出やがれ!」
ディールさんの声に従い、ずだずだと出ていく兵士達。ディールさんは全員が退室したのを確認してから「クリーン!」と唱えた。
するとそこらじゅうに散らばっていた砂粒や埃や木クズなどが宙に浮いて消滅する。
「うっし! 今日も魔法の質は上々だな! んじゃ明日の昼、よろしくな!」
ま、魔法かぁー。俺も使ってみたいなぁ。俺はミューミュー鳴いてる謎の生物をぷにぷにしながらクリーンのかけられた部屋をポカーンと眺めていた。
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