第2話 異世界の槍が脆いのか、あの世界の俺達が硬いのか

「貫けぇぇぇぇ!」


そんなオッサンの声が聞こえた瞬間突き出される無数の槍、そしてホワイトアウトする俺の視界。


あぁ、終わったな。


そう思ってた時期が私にもありました。そうです。この世界の神様は転生者をそんな簡単に殺してはくれないようです。


俺がホワイトアウトしたと思っていた視界はどうやらただ白い物体、いや生物に遮られてただけだったようだ。


それを見た俺、だけではなくその場にいた全員が固まった。


その生物はそんなのお構い無しとばかりに「みゅー!」っと元気よく鳴いた。

すると今までその半透明の白い体を貫こうとしていた槍が全てぷよんっと弾かれ、槍を向けていた兵士達全てが尻もちをついた。


そして、その白い謎の生物はこっちを向いた。鼻も口もない。ただ可愛いお目目だけがついたツルッツルの生物。形はあの赤い帽子がトレードマークのキャラが主人公として出てくるゲームのおばけのキャラに似ている。

俺がその生物をじっと見つめていると謎の生物は頬(?)を少し赤らめて俺に頬擦りをしてくる。もちもちぷよぷよ、少しひんやりしていて意外と気持ちいい。


そんな状況に置かれた俺たちは固まったまま動けないでいた。だが、この光景を目にしていない明莉と葵は別だった。きっと、オッサンの物騒な叫び声が聞こえてたのだろう、「お兄ちゃん!!」と目に涙を貯めながら襖を思いっきり開いた。

そして、俺が無傷なのを見て明莉は崩れ落ち、葵は飛びついてきた。


「よかったぁ、、、よかったよぉ、、、」


「心配させないでくださいよぉ、、、ひっぐ!」


明莉は膝を着いて涙を流し、葵は俺のお腹をグーでぽこぽこと軽く叩いている。どうやらまだ白い謎の物体は目に入っていないようだ。

まぁ、それよりもここはカッコを付けて明莉や葵からの指示を得るチャンスだろう!


「だーいじょうぶだって! 俺も馬鹿じゃないんだか」


「ふざけんじゃないわよ! あんな心配させといて! お兄ちゃんは馬鹿よ! 飛びっきりの馬鹿!」


バチーン!


「そうです! こっちがどんだけ心配したかも知らないで! お兄さんのばーかっ!」


「ぐへぇ!!」


カッコつけようとしたら途中でさえぎられてビンタと腹パンかまされたんですけど。どういうことですか? あっ、謎の生物が心配そうに俺の顔の前に浮かんでる。ありがとね。


でも、心配されてたのは素直に嬉しい。嫌われてはないと思ってたけど意外と慕われてて嬉しかった。


そんな感動の再開シーンに水を差す人物が1人。みんな、あのオッサンだと思うでしょ? 違うんだな、これが。


「皆の者っ! 怯むでない! 我々は騎士だ! 誇りある王の尖兵なのだ!」


そんな、若い女の人の声が部屋の中にこだました。すると、鎧をしたおっさん達の叫び声が部屋中に響き渡る。ほんとうるさい。ご近所迷惑極まりない。


・・・ちょっと待てよ? 騎士? 鎧? 槍? 王? こいつらは何を言っているんだ? イタズラか? かなり早めのハロウィーンなのか? いや、待てよ? そういや明莉がなんかフラグを・・・ あっ、これってもしかしなくても異世界に来ちゃった感じ?


「貫けっ! 救済の聖女以外を貫くのだっ!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」


やっべぇ! さっきよりなんか士気が上がってる! うわっ! 刺される! いや、明莉達を逃がさなきゃ!


「明莉! 葵! 逃げて!」


「みゅー!」


って声はもう遅かったようだ。流石に謎の生物も全員の突きを受け止めることは出来ず、謎の物体を避けて俺と葵に向かってくる槍が2本。かなり訓練されているのか俺と葵の頭をを綺麗に狙っている。


むう、俺が避けるのは簡単だ。頭を捻ればいいだけなんだから。でも葵はきっと気づいていない。葵の頭を動かせたらいいんだけど俺にがっしりのしがみついて動きそうにない。


てか、なんで俺にこんな考える時間の猶予があるの? おかしくね? というより、なんでこんなに冷静に状況を把握出来てるの?


まぁいいや。そのおかげで覚悟は決まった。一旦俺の腕に槍を突き刺させてから、無理やり軌道を変えてやる。


「男の生き様みとけや、ゴラァァァァ!」


俺は頭に飛んでくる槍を避けることもしないで葵の頭に目掛けて飛んでくる槍に向かって裏拳を飛ばす。


メキィッ!


・・・メキィ? 俺の骨でも折れたか? 俺が裏拳を放った腕を確認するとそこには俺の裏拳により、ぼっきりと折れた槍が見えた。


「えっ?」


俺が視線を真正面に戻した瞬間目の前を通過したのは大量の木屑と槍先の金属だった。


「あっ! 葵っ!」


俺は驚きのあまり失念していた。俺に抱きついている葵に。俺の体に当たり、へし折れた槍先が一直線に葵の頭を目指して落ちていく。


あぁ、やっちまったな。いっつも俺はこうだ。ひとつのことを終わらして油断して最後に重大なヘマをやらかす。ごめんな、葵。守れなかっ「ばりん」


「へっ?」


俺が恐る恐る俺のお腹に抱きついている葵の方に目をやると葵の頭と粉々に砕けた金属の破片があった。


葵が視線に気づいたのか俺の方を向いため目が合った。葵はその事に照れながらも頭の上をパパッと払って一言。


「あっ! こんな所にホコリが。えへへ、お兄さんに見られちゃいましたね。恥ずかしいです・・・」


どうやらこの一部始終を見ていた明莉は異常さに気づいたようだ。


「えっ!? いや、あの、槍っ、、、えっ!? なんで? お兄ちゃんに当たったら槍が折れて、葵にあたって粉々に?」


あっ、また謎の生物に槍を突きつけてた兵士達が尻もちをつかされてる。俺たちに槍を突きつけた人達もあわあわして結局尻もちをついていた。


「な、何故だっ! 異世界から来る聖女は伝説上1人ではなかったのかっ! そして、神は聖女を保護せよと仰った! だから私達は外にいた1人の女性を保護したのだっ! なのにこのザマだ! 何故だっ! 何故だっ!」


さっき士気を上げてた女の人のイラついた声が聞こえてくる。


あぁ、やっぱり異世界転移なんですね。てか、その外にいた1人って誰なんですか。近所のオバチャンかな? でもあの歳で聖女ってキツくない? オバチャンもう50歳過ぎてるよ?


てか、なんで女の人怒ってんの? 怒るの俺達の方だと思うんだけど。家の中に土足で上がり込みやがって。この部屋まで来たってことはおめぇらリビング通ったんだろ。あの部屋カーペット敷いてあんだぞ。掃除がどれだけ大変か分かってんのか。


「・・・なんだ、文句があるのか? この私の言うことに」


ガシャガシャと音を鳴らしながら1人の鎧が俺の前に歩み出てきた。他の鎧と違い真っ白な色をしていて、所々に金色の装飾がされてある。


あぁ、俺の心のボヤキは勢い余って口からポロリしていたようだ。てか、真っ白鎧が出てきた瞬間周りの兵士達がオロオロし始めたんだけど。


まぁいいや。こうなりゃやけだ。俺も葵も槍で突っつかれても無傷の体を手に入れたんだ。行けるところまでいってやろう。


「当たり前だろ? こちとら、いきなり訳の分からん世界に飛ばされて来ていきなり襲われたんだぞ? 文句が無いわけないだろ」


「お兄さん!」


葵がさっきよりも強く俺を抱きしめてくる。多分やめろって言いたいんだろう。でもな葵、言わなきゃいけない時って


「「もっと言ってやれ! お兄さん(お兄ちゃん)!!」」


あっ、そっちなんですかぁ。

偉く攻撃的に育ったもんで。お兄ちゃんは君たちが元気に育ってくれて嬉しいよ。従兄弟だけど。


「なんだ、言いたいことはそれだけか?」


「まだまだあるわっ! 夕食が完全に覚めちまっただろうが! 今回は上手く出汁がとれて格別に上手いお味噌汁だったのによぉ! 俺なんか焼きジャケを食ってる最中だったんだぞ!」


俺の言葉に白鎧が首を傾げる。


「ダシ? なんなんだそれは。そんなに重要な物なのか?」


「当たり前だろがっ! 出汁は和食の基本だよっ!」


「ワショク? なんだそれは。伝説の武器か何かか?」


さらに白鎧が首をかしげて問う。


「馬鹿かてめぇは! 和食ってのは日本の心だよ! 無形文化遺産に指定されてるんだぞ!」


俺がそう言うと白鎧はおもむろに兜を外し膝をついた。兜の下は金髪ポニーテールのとっても優しそうな美少女だった。

俺達がいきなりのことにオロオロしているのも気にせず、いきなり白鎧が叫んだ。


「すまなかった! 我々の都合でそのような大切な儀式の邪魔をしてしまった! 申し訳ないっ!」


あっるぇー、なんで大切な儀式なんて話になってるんですかねぇ? 俺が困惑しているのにも気づくことなく白鎧は続ける。


「だが、許してくれ。私達も危機に瀕しているんだ。こんな言い訳、あなた達には関係ないだろうが、この通りだっ! なんとか許してくれないか? おいっ! お前らも頭を下げるんだ」


「「はっ、はいぃっ!」」


金髪美少女の指示でオッサン達も兜を外し頭を下げる。


えっ? ど、どうすればいいの? とりあえず頭を上げてもらった方がいいよね?


「い、いえ、それほど謝られることは・・・と、とりあえず頭を上げて貰えますか?」


俺がそう言うと全員がゆっくりと頭をあげる。そして、全員の視線が俺に突き刺さる。やっべぇ、この後のこと考えてなかった。

どうしよ・・・って考えてるとドタバタと部屋の中に土足で入ってくる男が1人。


「報告ですっ! 報告ですっ! 彼女は聖女でもなんでもないただの城の清掃員でしたっ! 爺やの鑑定により、出た結果ですので確実な情報ですっ!」


「なんだとっ!?」


金髪ポニーテールの美少女が驚きの声を上げると共に、また兵士達がザワザワし始めた。


「つ、つまりはこの2人のうち1人が聖『ピピーガガガガッ』」


金髪ポニーテール美少女の発言を遮るようにけたたましい機械音が鳴り響いた。


「め、女神さまだっ! 女神様の神託だっ!」


とか兵士達が騒ぎ始める。えっ? 女神様の神託こんなはじまり方するの? 最悪じゃん。


『はーい、そこぉー。ダサいとか思わないぃー! パパーンと登場女神様だぞー!』


やけに陽気な声が聞こえてきた。うーん、なんか女神様とか聞こえてきたけど冗談だろ?


『はいはい、冗談じゃないからね! 現実受け止めてね!

さてと、今回の神託はズバリっ! 君のことなんだよねー。

実は間違えて聖女とか前回の神託で伝えちゃったけど実は今回は聖者で、そこにいる2人の女の子は聖女なんだよねー。


いやー、前回までの聖女達が全員逃げちゃったから同じじゃいけないと思ったわけですよっ!

だから今回は違う世界の、それも人数を増やして見ましたー! ぱちぱちぱちぃー!


でも、家までついてくるとは女神、驚いちゃった! てへ! てことであとはよろしくねぇー! ばーいちゃ!』


えーっと、とりあえずこれだけ叫ばして。


「このクソ駄女神がぁぁぁぁぁっ!!」

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