第9話違和感(3/3)

「宣伝だけしっかり残ってんだよな!

 ま、死んでんだろ、その依頼出した何でも屋」

「でしょうね…」

「だーが!調べる価値はある。

 というのもですね、一般的な依頼書はそれが無効になれば消えます。

 無効になる条件はおおよそ三つ。依頼主が死ぬ。依頼が取り下げられる。達成が不可能になる。どれか一つでも満たせばその時点で依頼書が消滅します。

 つまり、この依頼書が残っているということは依頼達成が可能ということ」

「そりゃ俺の真似ですか?」


 ピンと立てた人差し指をゆらゆらさせているラポを、半眼でにらんで話を引き継ぐ。


「この依頼者のエルシーってのは個人ではなく何でも屋の名前なのでしょう。そして、店は残っている。そうだとすれば、広告という性質上依頼の消滅は起こらない。広告と決まったわけではないですけど。

 それと…」


 依頼書をめくって裏にすると、ラポが訝しむ。

 そこに刻まれた日付を見せてやれば、得意満面の表情でいるラポの顔に困惑が浮かぶ。ガサツなこいつのことだ。気が付かなかったのかもしれない。いや、気づいていてスルーした可能性も否定できないか。

 今度は俺がさっきまでのラポと似たような笑みをすれば、ふてくされたように鼻を鳴らした。


「随分ギルドの仕組みに詳しいようですけど、生きてる依頼を見分けるのは簡単です。裏をめくって発行日が書かれているかどうか見るだけ。古い依頼書だと消滅する仕組みが組み込まれていないことも多いんです」

「はいはい俺の負け。それで発行日はいつだよ」

「…ざっと三百年前」

「はぁ!?」 

「ま、ここで話するだけでは何もわからないし、とりあえず行ってみましょうか。キーラの宝箱ってのは今でもある店ですし、探し回る羽目にはならないでしょう」

「そっちの店もすげぇなおい。老舗だな老舗。

 それじゃ、行くかぁ」

「もしかして今からですか?」

「当たり前だろ。とりあえずキーラの宝箱を目指す」


 言うが早いが、すっかり冷めてしまった大量の料理を流し込むようにして食べたラポは魔具を素早くしまい込み、ヘルムを被って立ち上がる。そのまま俺の襟を掴んで立たせると後ろに突っ立っていたやつらを席に押し込み、肩で風を切って歩き出した。

 ふざけやがって。引きずられるこっちの身になりやがれってんだ。

 恥ずかしい。めっちゃ見られてる。

 あー女の子に笑われた。

 ん?あぁ!?受付からゲラーまで見てやがる!絶対次あったらネタにされるなこりゃあ。


「ラポ。支払いは任せます」

「うぇえ?おごらせんのかよ」

「当然です。心の広い俺はこれで許してあげますよ」

「よくわからんがいいだろう。長話したらすっきりしたし、目標もできて気分がいい」


 たまには高い飯を食ってみるもんだと、ケチの俺にそう思わせるくらい今日の夕飯は有意義なものだった。

 ラポのもたらした紙切れが惰性で続いている今にヒビを入れてくれた。代り映えしない俺たちの生活に大きな変化が起きようとしている。あの依頼書を目にしてから、何かに背を押されているような感覚が続いている。

 願わくは、この平穏と退屈に満ちた日々を吹き飛ばしてくれますように。

 誰か、終わらせてくれ。

 誰か、助けてくれ。

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