第8話違和感(2/3)

「へえ。ラポがそんなに繊細だとは知らなかった。どうでもいい理解が深まりました。お大事に」

「唯一の肉親になんて暴言吐きやがるんだ。もっと構え。もっと気を遣え」

「今は、他人、でしょう、が!」


 詰め寄るむさ苦しい大男を押しのけ、長机に置かれていたピッチャーを口の上に構える。結露した水滴で滑りそうなになるのを注意しながら少しづつ傾けていく。口内に降り注ぐ冷たさが心地良い。

 やけに、水がうまい。


「それで、なんでしたっけ。こうやって真面目に考えるとファンタジーとしてはつまらないって話でしたね」


 俺にもと言うラポにピッチャーを譲ると浴びるように水を飲み始め、ものの十数秒で空にして乱雑に元の位置へと戻した。


「…つまらんと言うがよ、その割にゃ、迷宮とかいうダンジョンもどきやら魔獣っつーモンスターがごろごろしてやがる。お外で一日中散歩でもしてりゃスリリングなファンタジーを堪能できるぜ」

「そりゃスリルを履き違えてますよ。そんなのは嫌だ」

「ハッ!カセスの葉を取りに行ってるやつの言う台詞じゃねぇな。

 さて、長くなったがさっきまでのは前置き。本題はこれからだ」

「話が長い。いい加減、帰っていいですか?明日も早いんです」

「まあまあ。元々は今後の身の振り方についてって話だったろう。

 こいつを見ろ」

「相談つってたでしょ…」

 

 ラポが取り出したのは俺の見慣れたものだった。

 ギルドの発行している探索者向けの依頼書。それも、とんでもなく古いものだ。

 通常、ギルドで発行されるものは魔法による保護によって、偽造及び改竄の防止と正式な依頼であることを証明する仕組みを持っている。

 目の前にあるように、古本屋で投げ売りされている本から一ページ抜き取ったものの方がマシ、という状態になるのはとても珍しい。


「これは…」

「こいつは俺らみたいな余所者・・・向けみたいだぜ。読んでみろ」


 外見のボロさに反してしっかりとしているそれを手に取り、掠れた文字をなんとか読もうとする。

 目を細め、汚れを指でこすりながら解読でもしている気分で読み進めると、とりあえずの依頼人と依頼内容が朧げに見えてきた。


「依頼人は、エレ…エル、ソ?いやシかな。エルシ…エルシー。

 肝心の内容は、迷子。迷い人。漂流者。来。えます。相談。乗。チュート…チュートリアル!?」

「落ち着いて、まずは全部読め」


 いかにもな単語が見えて、俺の期待は否応なくふくらむが、ラポの淡白な反応も気になる。


「………何でも屋エルシー。無秩序の国ラジエンテにて営業中。御用の方は赤の地区南、キーラの宝箱まで。依頼書を…。

 これ、依頼書ってよりも宣伝広告の類ですね」


 もったいぶって長話までしたくせに黙ってやがったな。

 だが、これは俺らにとってのビッグニュースだ。

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