第6話騎士ラポ

 こっちの世界にきてからというもの、窮屈でやってられない。

 突っ立ってこっち睨んでるおっさんがむかつく。

 席とれねぇのはてめぇの責任だろうがダボ。

 おお、調子が出てきた。

 トロイくんみたいなクソ真面目のロールは疲れるってもんじゃない。

 こうも強制的にロールさせられることがなけりゃ非日常を観光気分で満喫できるってのに。

 今じゃ多少は慣れたからこうして素で考え事もできるが、最初は訳も分からず混乱して酷い有様だったな。


「おいトロイ!」


 唐突に名前を呼ばれ振り返ると、そこには両手に料理を満載した大皿を持った騎士風の全身鎧の大男がいた。

 俺に確認もとらず横に押し入り、抱えていた大皿を乱暴に放り出すと、こちらにまでソースが飛んでくる。

 抗議の意味を込めて全身で押し返してやったがこの図体だ。気にも留めないらしい。それどころか脱いだヘルムを俺の前に投げてよこす始末だ。


「ラポ…せめて頭のは外してからここに来ませんか?机に置かれると邪魔です」

「悪いな!見回りが終わってすぐにここに来たんだ許せ!」


 前から粗暴だとは思っていたが、こっちに来てからそれに磨きがかかってやがる。

 俺と違って体との相性がいいんだろうな。性別以外。

 そう。この全身を鎧に包んだゴリゴリの大男の中身は女性。

 しかも暫定前世での肉親、俺の姉である。正確には元姉、現他人である。


「お前がギルドの酒場にいるのは珍しいな。いつもはもっと安いとこだろう」

「多少余裕がでてきたんです。それで、ちょっとしたご馳走でも食べて気分転換をと」

「だがちょうどいい。会いに行く手間が省けた」

「なんです?」

「まあ待て」


 ラポがヘルムを弄ると、どうやら二重構造になっているようで、衝撃吸収用らしきスポンジ部分が外れ、二つに分離した。


「へぇ。騎士さまの被ってるヘルムってのはそうなっているんですね」

「いや、これは自分で改造した。支給されるやつにはこんな上等な造りをしてねぇ。当て布すらないってんだからマジで泣けたぜ。一日中着けてると首やら頭やら色々痛めるんだわ」

「高給取りも楽じゃあないんですね。上は無能っぽいし」

「そう!そうなんだよ。まさにお決まりというか王道的というか…いい加減嫌になる。

 ああ、待て。ストップだ。愚痴を聞かせてやりたいのもやまやまなんだが、今日はこいつを使う」


 支給品のヘルムの裏側に張り付けていたトランプサイズの真っ赤なカードを取り出すと、俺に差し出してきた。

 よく見ると両面には無数の線が走っている。

 手触りは滑らかで、角が丸く整えられている。


「こりゃなんです?」

「使ってみろ。面白いぞ」

「使えったって…うぉ!」」


 カードを撫でたり曲げたりしていると、突然凄まじい光を放ち始める。

 慌てて両手で包んで隠すと、ラポに笑われた。

 睨みつけて黙らせる。


「こりゃ手品にでも使うんですか?」

「まあ見てろ」


 突然椅子に立ち上がると、止める間もなく大声で叫び始めた。

 突然の奇行に驚いて固まる俺をよそに、ラポはストレス発散をするかのように叫び続ける。

 ふと、辺りを見渡すと、誰もラポに気付いていない。しかし、無視するにはラポの声が大きすぎる。普段なら、いつ誰が怒鳴りつけにくるかわかったもんじゃない。それくらい騒がしい。

 異常だ。

 ここだけ別の空間になっちまったみてぇな気持ち悪さだ。

 ああ、だが知ってる。

 こんなわけわからねぇ現象を起こせるモノってのは決まってる。


「魔具ですか」

「正解。こいつは正真正銘魔法の道具さ」

「それ、まさか盗んできたんじゃないでしょうね」

「それこそまさかだ。偽造した許可証で赤の地区に入り込んだアホから巻き上げただけだ」

「…そういった連中の所持品は、調査って名目で上に持っていかれるものでしょう?」

「そう。普通はな。今回は運が良かったぜ。その野郎を見つけたのは俺一人の時でな、見逃す代わりに…」

「それを寄越せ、と恐喝したわけですね。とんだ騎士さまだ」

「おいおい、そりゃマジで言ってんのかよ。無実の市民に手を出さないだけ、俺はマシな方だぜ。

 最も、口さがない奴らに、最近出る物盗りは俺達騎士連中なんじゃないかって言われるくらい評判悪いのは確かだがな」


 器用に片眉だけ上げて、ラポが文句を言った。

 聞こえてくる騎士どもの噂は誇張されたもんだとばっかり思っていたが、そうでもないらしい。

 ラポが高潔な騎士道精神ってやつを持っているは思えないが、私利私欲で人を貶めるような人間ではないことは知っている。だから、あの上が腐りきった組織で暴走せずによくやれていると感心せざるを得ない。


「それで、結局俺への用事は何なんです?魔具を見せびらかしに来たわけじゃないでしょう」

「今後の相談をしたくてな。内緒話をするにはちょうどいいと思ってこいつを持ってきた」

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