続きが書けないよっ!

英知ケイ

第1話 続きが書けない! ~その前に

「なんでだよっ」


 英知ひでともは、カクヨムの画面に向かって絶望感に苛まされていた。

 さっきまで楽しんで書いていたのに、どうしちゃったんだ俺は。




 書いてるのは、王道の異世界こそはずれているけれど、それなりに人気のありそうなジャンル、学園異能モノだ。


 他に多くあるような中世ヨーロッパ的異世界ファンタジー、科学な異能や魔術な異能が交差する西洋的な現代ファンタジーではなく、日本の神話や歴史をベースとする和風なお話にしてしまったので、世界観の説明のため、説得力を持たせるために、日本の神話や歴史を自分なりに勉強して、書いている。



 べつにニッチにチャレンジしたかったわけではなく、純粋に好きだったからだ、日本の神話・歴史が。



 本当は、日本の歴史をあっちこっちにタイムスリップする話とか書いてみたい。

 でも、それだけだときっと手にとってもらえない。

 どうしたらいいんだろう、と考えた。


 あやかしや陰陽師くらいまでしか馴染みが無い読者が普通だろう。

 刀剣や、戦国、幕末は一部の熱烈な層に支持されているけれど、結構書き尽くされているじゃないかと思う。

 少なくとも、同じ土台で勝負しても勝てるとは思えない。


 何より馴染みをもたせつつ、馴染みの無いジャンルに読者を連れて行くにはどうしたらいいのか?

 そんなときに、言われたのだ。




『そんなの簡単じゃない。こっちから神話や歴史に行くんじゃなくて、現実に神話や歴史を持ってくればいいのよ』




 全然簡単じゃない、意味がわからない。

 俺のそんな顔に気づいたのか、彼女は続けて言ったのだ。




『学校は誰でも一度は行く場所でしょ。そこを舞台にしなさい』




 そうか、学園モノ。それなら誰でも馴染みがあるしわかりやすい。

 でも、どうやって神話・歴史と絡ませればいいんだろう?

 家が神社とか、実はXXの血をひくものとか……うーん。




『部活させるのよ、部活、研究させればいいじゃない、神話や歴史』




 なるほど、ミステリーものとかで良くあるパターンだけどありかもしれない。

 でも、そんな部活不自然な気がするんですけど……




『もちろん目的があるのよ、そうね……呪いを解くためとか?』




 部活=被害者友の会……!

 ストーリーには方向性が必要だから説得力あるかも。

 でもそんな呪いってあるのかな?




『ちゃんと勉強してるの? 日本なんて呪いの宝庫よ。でも、普通じゃ面白くないから、アレンジしてみようか』




 資料を渡された……こ、これは? 十種神宝?




『知らないでしょ。聞いたこともないでしょ。この神話アイテムについてはそれが普通。歴史的には抹消されたものだからね。でも知らないって、怖さに通じるのよ。これを使って「ホラー」でいきなさい』





 ジャンルまで決められてしまった。


 でも、ホラーか。

 呪いで怖い話だと読んでもらえる読者層が限られそうなんだけど。




『何よ、不満なの。それならもう呪われるの全員女の子にしちゃえば? 男の子が主人公ならハーレムテンプレっぽくもできるし、女の子それぞれの心情がちゃんと書けてれば女の子だって読んでくれるわよ』




 自分の腕次第ということか。

 でもまてよ、このアイテム全部、性能がちゃんと書いてないよ?




『そこは自分で調べて書くこと。調べてもわからないところは自分で埋めなさい。物語を書く以上、あなたは小説家なんだから』




 うーん考えるのはいいんだけど、そもそも異能な力を与えるアイテムに呪いっておかしくない?




『普通じゃない力なんだから、強い薬とかと一緒で副作用とかあって当然じゃない? そこも自分で考えるのっ!』




 とうとう怒られてしまった。

 まあでもここまでヒントをもらってしまっては、反論できない。


 ここまでをまとめると、


 ・舞台は、学校 = 学園モノ

 ・主人公は、「神話・歴史を研究する部活(仮)」に所属

 ・主人公と部活の仲間は呪いをとくために頑張る

 ・呪いの元凶は、十種神宝、おっそろしい異能を与える代わりに何らかの辛い副作用がある


 こんなところか。

 あれ、でも、何か足りない気がする。




『物足りない顔して当然よ。これは私が英知ひでともにあげた設定。英知ひでともにとってはもらいものだから、一番大事な作品の「テーマ」が無い状態だもの』




 テーマとは作品を通じて作者が読者に伝えたいこと、共感して欲しいと思うところ、だと彼女は付け加えた。


 ……難しい。でも、今書きたいって思ったんだから、何かあるはずだ。書きたいこと。


 主人公の、格好良さ、だよな、きっと。

 格好良さって何だろう。


 浮かんだのは、呪いで苦しむ女の子達を頑張ってその呪いから救うシーンだ。わが身を顧みず。


 きっと、これ。


 イメージは、青春とか絆、か。


 ホラーなのに大丈夫かな?


 いや、ホラーだから逆にこれが必要なのかもだ。

 光が強ければ強いほど、闇も強くなる。光と闇があわされば最強説!


 ……物語のテーマが決まった。




『うん、まあ、いいんじゃない。じゃあ次は、プロットを作るのよ』




 テーマ迸るままに、本文を書こうとして止められた。

 プロット? 初めて聞く言葉だ。


 彼女の説明によると、物語のあらすじらしい。


 作家によっては、書き出したり、頭の中だったりはあるが、基本絶対にあるはずのもの、とのことだ。

 これがないと、物語に矛盾が生じたり、進行や展開のマンネリ化の原因になるので、初心者は特にしっかり作るべきだと。


 あらすじ?



 ときはなたれた呪いのアイテムにより呪われる女の子

 その女の子達を見つけて救う



 こんなかんじ?




『それは単なる作文。プロットっていうのは、物語の詳細な流れを部・章・話の単位で書くものよ。動機・経緯と行動・事件とその結果・影響を時系列に並べてね』




 最低限、第X章のX話で何がおきるかまで、書くことと言われた。

 どうやったら書けるのだろう、書ける気がしない。




『そうね。いきなりは難しいから、こうしなさい』




 彼女は、今回はこの順番で考えるようにと言った。

 テーマからのトップダウン、キャラクター・設定からのボトムアップが大事だそうだ。



(1)十種アイテム分、つまり十人分の女の子の呪いと能力を考える。


 キャラクターの容姿・性格・人間関係なども煮詰める。

 周辺キャラも思いついたらどんどん追加する。


 ※(1)が終わった後、(2)(3)(4)を同時並行ですすめること。




(2)物語の最初の章と最後の章を考える。物語の背景設定をまとめる。


 どうして呪いなのかの理由に説得力を持たせること。


 初回は、読者を引き込むこと、後の展開に興味を持ってもらうことを意識する。

 ホラーなので怖さは欲しいし、ほろ苦くても良いけれど、ラストに気持ち良さを少しは加えること。

 この二つはプロットを作りつつより良いものを思いついたら、いつでも変更してよい。


 最初と最後は物語の根幹。

 テーマ及び、物語を支える背景設定がしっかりできていない場合は、書けないので、まずそこを埋めること。




(3)各章、一人の女の子にスポットを当てて、章ごとのプロットを書く。


 ラフでいいけれど、登場するキャラクター、起きる事件、などはここでしっかり考えること。

 章ごとに単体の物語としても楽しめること。

 各章でのテーマや、アピールポイントを考える。

 大事なのは、書ける子から書くこと!




(4)(3)のプロットを物語に都合の良い順番に並べて、書き直す、詳細化する。


 時系列が前の物語の状況は必ず次の物語に影響しないとおかしい。

 プロットとは因果関係の構築であることを意識すること。

 

 


 恐ろしいことに言われたとおりにやってみると書けてしまったのだ、プロット。


(1)は楽しい作業すぎた。十人は大変かと思ったが、属性を思いつく限り書きだして、当てはめてアレンジするとこれでも足りないくらいだった。


(2)は最初つまづいたので、作品の背景となる神話・歴史を勉強した。その結果、作品は三部構成で、今回は一部の現代編とすることを決意してしまった。とりあえず主人公の設定と一章の最初と最後は決まった。同時に(1)のヒロイン達の設定も深まった。


(3)(4)は同時に行った。アドバイスを受けていたように書けるものから書いてみてつなげてゆくと、いつのまにかできていた。




『さ、三部構成……まあいいわ、面白いなら長さは関係ないのが小説だものね。その代わり章ごとのお話はしっかり書くのよ』




 章ごとの勝負、理解しました。




『一応確認なのだけれど、主人公が草食系なのはなぜ?』




 性格は、エロ全開・欲望全開系にするか、草食系にするか悩んだけれど、現代ファンタジー風味でシリアス路線だから、読者が投影しやすそうな草食系にしたんだ、なんとなく。

 これまで読んだ小説からっていうのもあるし、もちろん自分が……きっと草食系だから、ってのもある。




『他の作品を挙げて言える根拠があるなら合格ね。まだちょっとラフだけど、このプロットで本文を書いてみなさい』




 彼女の言うとおりに書いて、物語っぽいものを書けてはいる、さっきまでは書けていたんだ。

 でも、急に続きの書き方がわからなくなった。


 ……ここは彼女に救いを求めていいよね?



「ケイ姉ちゃん! 続きの書き方教えてよ」





※作者注


 ちなみにきっとお読みになりながら思われた方もいらっしゃると思いますが、ここまでは以下の榎本秋先生の講座で到達できる内容です。



 【カクヨム小説創作オンライン講座】

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054887505986



 しかし、これを読んでも書いていてつまづくのです。


 つまづいた時にどうすればよいのかのヒントが欲しいとカクヨム運営様に要望を出しても、全く反応がないので(一般論で言えないからかもですが)、自分で考えながら書いてみることにしたのがこの創作論です。


 プロットはある、設定も完璧、あとは本文を書くだけなのに、なのにいいぃい、という症状の解消法。


 自分では上手くいった的なものなので、役にたつとは限りませんが、諸先輩方にコメントでご意見いただければ、補完できると考えます。

 自分ならこうしてきた、これで上手くいっているというお知恵をいただければ嬉しく思います。



 私自身が偉そうなことが言える身分ではありませんので……。

 脳内で、今回の可愛い英知君と、ドSなケイお姉ちゃんのようなやり取りをもう少し複雑にして(?)生まれたのが以下作品ですが、なかなか新読者様が増えないので、やっぱりまだまだ何かが足りないのです。



 偽書ひめでん! ~呪いの十種、それは運命にあらがう方法

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054887459503



 十万字は余裕超えな作品になっているので、文字数書ける、のは上達と言っていいのかな? こちらにもツッコミいただけますと幸いです。


 文字数書ける、続きが書けるのと、面白いお話を書けるかはべつなんだ~~~。



 いけない、これもお伝えしておかないと。


 私がこの創作論を書いた理由は、カクヨムコン、文字数でかなり脱落が多いということを風のたよりに聞いたからです。


 年末年始で忙しいことは当然ですが、ひょっとして皆様途中のつまづきもあったりしないのかなーと。


 年末年始休みの執筆のヒントになれば嬉しく思います。

 ならなくてもまあ私の備忘録として生き続ける作品ですので、これ。


 今回のエピソードのような工程を実施されていて起きているのであれば効果があるかもしれません。


 今回のエピソードのような工程を実施されていない場合は、まず榎本秋先生の講座をお読みいただくのが良いと思います。急がば回れです。

 書き方は人それぞれですが大事なことは変わらないと思うのです、私は。




 英知君とケイお姉ちゃんについては、英知おにいちゃんとケイというパターンも考えましたが、完全にラブコメか恋愛ものになりそうな予感がしたので避けました。あーでもありだったかな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る