ディアナ──祭りの前、祭りの始まり。

 ディアナは朝、目覚めてすぐに手紙を持って家の外へと飛び出した。寝起きでくしゃくしゃな金色の髪。寝間着姿の肩には一羽の鳩が悠々とした風情でまっている。

「キオン、お願い」

 ディアナははやる気持ちで鳩の首に手紙を掛ける。ディアナとルナの二人分を纏めた、一通の手紙を。

 キオンはまかせてと言わんばかりにクーッと鳴くと、羽根を広げて飛んでいった。

 後ろ姿が青空の向こうへと小さくなるまでディアナは見送った。両手をぎゅっと組んで握りしめ、キオンが無事に届けて戻ってきてくれますようにと祈りながら。

 リオンからの返事はそれから五度目の朝に届いた。ディアナとルナにそれぞれと、デメテールにもだ。受け取ったデメテールは、律儀な子ね、と微笑んでいた。

 ディアナの分の手紙はそれほど書かれていなくて、けれど見慣れた右上がりの文字は所々れていたから、よっぽど急いで書いてくれたんだろうなと思った。

 ディアナ達が春の祭りに顔を出すことを喜んでくれていることが文面から伝わってきて嬉しかった。リオンは前祭りの日は外せない用事があると書いてあって、それは少し残念だったけれど、本祭りでなら時間を作れるとも書いてあったから、ディアナの心は一気に弾んだ。また会えることが分かったから。

「ディアナ、鏡見てきなよ」

 ルナがくすくすと笑う。同じようにリオンからの手紙を手にして、部屋のベッドに座っていた。敷物を冬用から変えた床に座っているディアナがむっと唇を尖らせた。またからかわれてるとすぐに気づいたからだ。

「いいでしょ、べつに」

「いいけどね、べつに」

 そう言ってまた小鳥のさえずりみたいな声を立てる。くすくすくす。その向こうから聞こえる、ルナの机にある自鳴琴オルゲルの優しい音色。

「ね、着替えよ!」

 ルナがディアナの所に来て腕を引っ張ってきた。蒼い瞳をきらきらさせて。

「……また?」

「いいでしょ? 一回だけ!」

「それ昨日も聞いた」

「昨日は昨日、今日は今日!」

「もう……」

 呆れながらも、ディアナもまんざらではない気持ちで立ち上がる。

 室内にある両開きのクローゼットの扉を開けてワンピースを一着ずつ取り出した。薄い布を何枚も重ね合わせたものだ。色はディアナが淡緑うすみどりで、ルナが淡青うすあおだ。

 不規則に段々になっている裾には、うるさくない程度にレースがあしらわれている。一番下の裾は足首の辺りまであった。

 袖のないそれを着て、背中が隠れるくらいの丈の白い上着をはおる。上着にボタンは無く前が開いていて後ろにはフードが付いている。袖は指先が覗く程度の長さ。

 着替えたルナがくるりと回転すると、銀色の髪とワンピースの裾が花のように広がった。

「上手くできたよねー、これ!」

「そうだね。お祭りまで六日しかないのに、いきなり『服作ろ!』って言われたときはどうしようかと思ったけど」

「いいじゃない余裕で間に合ったんだし」

「そうだけど……」

「お祭りなんだし、リオンにかわいいって言われたいじゃない?」

「……それは」

「でしょー?」

 にっこりと笑うルナの強さに思わず口ごもった。顔が熱い。最近こんなふうに口で負けてばっかりな気がする。ちょっとくやしかったのでルナの両頬をむぎゅっと摘んでみた。

「むーっ!」

「ごめん」

 別に悪いと思ってはいないけれど一応謝って手を離す。ルナは大して痛くもないだろう頬を大げさにさすっていた。

 そんなふうに、時間は過ぎていっていた。

 互いの服を作るだけではなく、髪の毛をいじり合って一番可愛いと思える髪型を作ったり、ワンピースと合わせる鞄の中に何を入れるか考えたり、『捜す』魔法でお互いの身体に本当に種が埋められているのか、いるのなら育っているのかを自分達で調べて結局何も見つけられなかったり、デメテールに『診る』魔法で大まかに体調を調べてもらったり、それぞれで簡単な荷造りをしたり。

 いつも通りの日常を過ごしながら、ディアナは約束の日を待ち焦がれていた。



 三人が『イオリスの街』に着いたのは前祭りの日の、昼をかなり過ぎた頃だった。

 ルナとディアナは前祭りの朝から祭りを楽しみたいと思っていたのだが、祭りの時期の馬車の予約などとっくに埋まっていて、今日のこの時間もようやく取れたのだとデメテールは胸を撫で下ろしていた。

 馬車のキャリッジは前に乗ったのよりも大きくて、他の村人と思わしき人達との相乗りだった。御者は二人居て片方は前と同じ人だった。もう一人は彼の息子かもしれないと思った。笑ったときの顔立ちや雰囲気がよく似ている。忙しそうだから声をかけられなかったけれど、元気そうでよかったねと、フードを被ったディアナとルナは小さく笑いあった。

 思ったより早く街に着いて馬車を降りると、御者は元来た道を戻っていった。再び村まで戻って別の村人を街まで送るのだろう。

 街の出入り口に程近い乗合場から宿へと歩く。泊まる場所は前と同じ『オデットの宿里亭やどりてい』だった。こちらの予約はすんなり取れたらしい。宿の奥さんがデメテールを常連さんと言っていたからそのせいかもしれない。

 宿に着き、デメテールが帳面ノートに宿泊者名を記入すると鍵を渡されて部屋に案内される。案内してくれたのは女の子で、少しくだけた話し方は宿の奥さんを思い起こさせた。

 扉に林檎の絵が描かれた部屋は前よりも広い部屋でベッドが三つあった。大きく取られた窓からは青空の中にうっすらと時計台の輪郭シルエットが見えて素敵だった。

 多くない荷物を床に降ろして一息つく。

 ルナは今からでもすぐに街を回りたいと言って、デメテールは少し疲れたから休んでからにしたいと言った。ディアナは、気持ちとしてはルナと同じだったけれど、デメテールの顔色がすぐれないように見えたので、あたしも疲れたから少し休みたいと言ったらルナは折れてくれた。

 祭りのせいか人気ひとけの少ない宿の食堂で休憩して、それから広場へと向かうことになった。

 宿から広場へと向かう道々みちみちには人が多かった。すれ違ったり前を行く人の顔には楽しげな笑顔があった。

 道のところどころには屋台が出ていて、肉の焼ける匂いや果実の爽やかな匂いがした。手を繋いで歩くディアナとルナの横を荷車にぐるまが忙しなく通り過ぎる。

 そうして広場に着く頃にはいつの間にか結構な人混みの中にいた。人の頭で向こう側がよく見えない。音楽のような音が聞こえるけれど雑踏の音が強すぎてよく分からない。気候のせいだけではない熱気でなんとなく暑い。

 まだ前祭りだからきっと人は少ない方よ、と先を行くデメテールは言うけれど、これで少ないのなら本祭りである明日はどれほどの人が訪れるのだろう。あたしまた迷子になるんじゃないかな。思ってルナの手に力を込めた。

「今度はわたしが迷子になったりして」

「冗談になってないよ、ルナ……」

「冗談じゃなくて、本気で」

「本気でも冗談でもやめて頂戴二人とも」

「「はーい」」

 一緒に返事をして、ふと上を見上げた。思わず声があがる。

「──わあ……!」

 それはまるで緑色をした虹だった。それはいくつもいくつも青い空に架かっていた。

 よく見るとその緑色は織物で、建物と建物の間を繋ぐように架けられていた。虹を思わせたのは色のせいだ。緑色が多いけれど、赤色や黄色や橙色もあちこちに見えた。一色の織物だけではなく柄物もあった。青空に架かる様々な色。陽の光に色が透けていて綺麗だった。

「花畑みたい……」

 ぽつりとささやくようにルナが言った。前に連れていってもらったあの森の奥の花畑のことだろう。確かに、似ているかもしれない。綺麗だけれど、どこか人工的なところも含めて。

 人の流れに逆らわないようにして広場の中心へ向かう。

 大きな時計台は変わらず堂々としてそこに在って、けれど少し前と違っていた。時計台の周囲には太くより合わせたロープが張られている。おそらくは人波がぶつかって傷ついたりしないようにだろう。

 そして時計台の上から垂らしたのだろう、緑色の織物が側面を飾っていた。差し色だろう黄色と橙色の模様が鮮やかだった。

 時計台の裏に行くと離れたところに煉瓦で囲われた小山があった。

 その山はよく見てみれば木片で出来ていた。どう見ても何かが壊れたような破片だった。

 気になったデメテールが小山から人を遠ざけるように杭を立ててロープを張っている人に訊ねてみると、あれはこの街に住む人達から集めたものだという。

 昔は森の木を燃やしていたが、今は魔女が棲むという森には入りづらい。実際に所々に入れない場合もあった。だから代わりに街人から集めた木片の塊を『木』と看做みなして燃やすのだという。本祭りの日の一昼夜をかけて。

「へー、そうなんだ」

「お祭りって不思議なことをするんだね」

「儀式なんてそういうものよ。結果としてただしく成立していればいいのだから」

 デメテールは礼を言ってその場を離れ、話をしながらしばらく広場を巡った。

 小腹が空いていたので甘い匂いにつられて屋台の食べ物を買った。果実の周りを溶かした砂糖で固めたお菓子だ。歩きながら食べることに最初は戸惑ったけれど、お菓子は美味しくてすぐに夢中になった。そして服を汚さないように食べるのは結構コツがいるんだなと思った。

 とある屋台では知らない玩具が水に浮いていて驚いた。玩具に付いている糸の輪っかに、曲がったフックを引っ掛けて釣り上げて取るらしい。やってみたかったけれど、また明日も来るのだから明日にすることにした。

 広場の一角では見たことのない楽器で聞いたことのない音楽を奏でている人達が居たから、しばらく終わるまで聞き続けた。歩いていた人達も立ち止まっては拍手をしたり足元の箱に硬貨コインを投げ入れたりしていた。ディアナとルナも同じように硬貨コインを入れた。

 また別の場所では簡単な音楽に合わせて踊りを披露している人達が居た。彼らの一糸乱れぬ動きは精巧で、ディアナとルナは息を呑んで見入ってしまった。そこにも硬貨コインを入れる箱があったから、拍手をして硬貨コインを入れた。

 そうやってのんびりと広場を回っているだけで、結構な時間が過ぎていた。空はすっかり夕焼けの色をしている。

 広場から宿泊地区に足を伸ばしてそこで早めの夕食を取った。早めに向かったせいか並ばずにすぐに店内に入れた。そこは大通りから少し隠れたところにあって、あまり大げさに着飾っていない外観の、素朴な雰囲気の食事処しょくじどころだった。火を通したサラダが美味しくて、パンと一緒にごろごろと大きく切った野菜とお肉を煮付けた料理を三人で分けて食べた。

 暗くなって空に星の輝く帰り道。

 大通りを通って広場に向かっていると、子供達の列が木片の小山へと向かって練り歩いているのが見えた。皆、緑色を基調とした筒型衣チュニックを着て、片手に木片を、片手にランプを持っている。ゆらゆらと煌めく灯りが動く様は、まるで流れ星が行進しているようだった。

 子供達は木片を小山に投げ入れると、ランプを持ったまま周囲を囲うようにして並んでいく。そして全員が木片を投げ入れると、ゆらりと揺れて歌い出した。何人もの人達が足を止めて調子を合わせるように手拍子をする。ディアナ達も手拍子をした。手拍子に合わせて歌が大きく響いては調っていく。それはとても素朴で幻想的な光景だった。

 短い歌が終わって自然と拍手が起きる。子供達は一礼すると再び一列に並んで元来た道を歩いていく。

 ふとランプの列の先頭に目を向けてみると橙色の髪の毛をした背中が見えたのは、ランプの灯りが見せた幻想まぼろしだろうか。




 本祭りの朝は綺麗に晴れていた。

 目覚めはとても良かったけれど、少しだけのんびりと過ごしてから『オデットの宿里亭やどりてい』を出る。

 近くの食堂でディアナとルナはデメテールと一緒に軽い朝食を取った。それから、ディアナとルナだけ椅子から立ち上がる。二人は頬を少しだけ赤くさせて口元を緩ませる。

「行ってらっしゃい。くれぐれも気をつけて」

「うん。でも大丈夫」

腕輪ブレスレットもあるしね」

 ルナが左手を持ち上げる。その手首には小さなみどりの石が編み込まれた腕輪ブレスレットがあった。ディアナの左手首には、同じ形状をしたあおの石の腕輪ブレスレットがある。

「夜までには宿に戻ってきなさいね」

 心配そうに眉尻を下げて微笑むデメテールに、はーい、と二人は声を合わせて返事をした。

「「いってきます!」」

 ワンピースの裾をひるがえし、二人は食堂の扉から外へと飛び出した。

 広場に繋がる大通りには昨日よりも多く屋台や露店が出ていて、行き交う人々も昨日より多く感じた。今にも走り出してしまいそうになりながら、二人はぎゅっと手を繋いで歩いていく。

「暑い」

 ルナが被っていたフードをぱっと外した。ディアナは丸くした視線だけで、いいの? とルナに訊ねたら、ルナはいたずらっぽく歯を見せて笑った。

「誰もわたしたちのことなんて見てないよ、たぶん。だってお祭りの方が楽しいし」

 辺りを見てから、なるほど。と納得したので、ディアナもフードを外した。風は生ぬるいけれど火照った首筋を撫でてくれて気持ちがいい。

「涼しそうでいいなー。わたしも結い上げればよかったかも」

「そう? すごく似合ってるのに、その髪型」

「……そっか。じゃあこれでいい」

 嬉しそうにルナが表情をほころばせる。それを見たディアナもなんだか嬉しくなった。

 喉が渇いたので、途中の屋台で柑橘オレンジを絞った飲み物を飲んでからまた歩く。広場に向かう毎に人通りが増えている感じがした。もう少しで広場なんだと思うだけで、鼓動が強くなって体温が上がっていく。繋いだ手が汗ばんできたので一旦手を離してハンカチで拭った。

「……なんだかどきどきしてきた」

「いまさら?」

「だって、実感なくて」

「言われてみたらわたしもないかも。でも楽しみ! 待ち合わせ場所って時計台でよかったよね?」

「うん。でもこんなに人がいっぱいなのに、どうやってリオンを見つけたらいいんだろう」

「わたしの手紙には、広場に来たら分かるよ、としか書いてなかったけど、ディアナは?」

 歩く速度を少し落とし、肩に掛けている鞄から手紙を取り出してさっと読む。

「……あたしのも同じ感じ」

「やっぱりかあ。ま、行けば分かるよね」

 ディアナは手紙をしまいながら、そうだね、と頷いた。

 しばらくして広場に着くと、時計台の方向に濃い人集ひとだかりが出来ていた。雑音を貫くような大きな声も聞こえてくる。気になった二人は人の間を縫って向かっていった。

 人集ひとだかりの中心は木片の小山──昨日の人いわくの『木』だった。煉瓦で囲われた『木』は昨日の昼に見たときよりも大きくなっていて、鮮やかな緑の布が長く螺旋状に巻かれている。すん、と鼻をならすと油の臭いがした。

 傍には似たような雰囲気の、整った黒い衣装を着た数人の人達が並んでいた。中心には赤茶色の髪の毛を後ろに撫で付けた壮年の男性。集まった人々を真っ直ぐに見て、よく通る声で何事かを話している。

 その隣にリオンが立っていた。

 どくんと胸が高鳴って、口の中で小さく声をあげてしまう。視線は外せないまま、隣のルナに向かってささやく。

「……リオン、だよね」

「だね」

「なに、してるんだろ」

「見てれば分かるかも?」

 リオンはランプらしき物を持って前を向いている。唇を引き結んでいて表情は固い。じっと見つめていても視線が合うことはなくて、ディアナの胸がちくりとなった。

「──そして、健やかなる年が我々に再びめぐる事を共に願いましょう。──リオン、火を」

 名前を呼ばれたリオンは引き締まった表情のまま男性に向き直ると持っていたランプを渡す。

 二人の横顔をじっと見ていたらふと気づいた。目だ。つり目がちな目尻がよく似ていて、そういえば瞳の色も同じあかだと遅れて気づく。

「もしかして、あの人がリオンのお父さんなのかな。街長まちおさの」

「あ。そうかも。あの人が一番偉い人みたいだし」

 街長まちおさでリオンの父親と思わしき男性が、受け取ったランプを『木』へと投げ入れた。とさっと案外軽い音がして、あのランプ硝子がらすなどではなく紙か何かで出来ているのだと分かった。

 ぼっ! と火が点く音がしたと思った途端、螺旋状に巻かれている布を伝うように火は一気に燃え上がって炎となった。炎の持つ独特の熱気が生まれる。ぱちぱちと木片がぜる音がし始める。油の臭いがするのは布や『木』に油を染み込ませているせいなのだろう。

「最後になりましたが、我が『イオリスの街』の伝統文化である『めぐるディティース』を、どうぞ心ゆくまでお楽しみ下さい」

 男性が炎を背景に、胸に手を当てて深く一礼する。リオンも、他の人達も礼をする。集まっている人々が一斉に拍手をして歓声が起きた。ディアナとルナもゆっくりと拍手をした。

 頭を上げた男性達がその場を後にしていく。その先には簡易の天幕テントが作られているのが見えた。

 彼らが通った後の箇所にロープが張られ、数人の人達がロープの周りに立った。おそらく誰かが不用意に近付かないようにと見張りをするのだろう。

 集まっていた人々が思い思いに散っていく。中には炎を拝んでいる人もいた。きっと家族や自身の息災を願っているのかもしれない。

「……どうしよっか?」

 燃えている『木』から離れながらルナが首を傾げる。

「時計台の前で待ってたらいいんじゃないかな。すぐそこだし」

「やっぱりそれが無難かなあ。リオンたちが行った天幕テントにも行ってみたいけど」

「まずいと思うけど」

「わかってるってば」

 ディアナが半眼になってルナが笑った。

 時計台に向かって人混みの中を歩く。

 ルナがディアナの手を取って顔を覗き込んできた。なんだかにやにやとしていて、ディアナは嫌な予感がほんのりした。

「どうだった?」

「……なにが?」

「だから、リオン。見るの久しぶりだったでしょ?」

「……」

「きゃーっ! って思わなかった? 本に出てくる貴族みたいな格好だったし」

 ディアナはルナから顔を背けて呟くように言った。

「……ないしょ」

「えー! なんでー!?」

「言いたくないから」

 ディアナがつめたい! と嘆くルナの声は聞こえない振りをして、天幕テントのある方にそっと目を向けた。早くリオンが出てこないかな。思うけれど口には出さない。絶対にからかわれるに決まってる。

 たどり着いた時計台の下で、ディアナはぼんやりと空を見上げて思う。無意識にペンダントのチェーンに触れていた。

 かっこよかった。と、お疲れさま。一体どっちがリオンにとって良い言葉になるのだろう。

 青空には橙色の布が虹のように架かって風に揺れている。

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