ディアナ──涙と約束。右上がりな彼の文字

 宿の内側から扉を開いたのは『オデットの宿里やどり亭』の奥さんだった。

 汚れても目立つ明るい色の服にエプロン。履きやすい浅い靴。丁寧に纏め上げられた黒髪。革紐で首から下げられた眼鏡。

 化粧っ気はないけれど、優しさが皺のある目じりによく似合う雰囲気のある人だとディアナは思っている。

 奥さんがリオンへと寄って来て嬉しそうに笑った。

「あっはは! 騒がしい声だと思ったらやっぱりリオンかい! 図体ばっかり大きくなっちゃって。やんちゃなのは変わらないねぇ!」

「あー……久しぶり、フェッテさん」

「しかもこんなに可愛いを二人も連れちゃって、いつの間に男を上げたんだか」

「うっせーよ!」

 フェッテさん、と呼ばれた奥さんはにまにまとした顔でリオンの額をつつく振りをする。気恥ずかしげな様子だったリオンはそれを振り払うかのように腕を動かした。

 二人が楽しそうに笑い合う。

 それからリオンが話し始めた。一瞬だけディアナを見てから。

「それよりさ、フェッテさん。この子たちの親御さんって帰ってきてる? 確かメテルさんっていう女性ひとなんだけど」

「ああ、あの常連さんねぇ。ついさっき帰ってきてらっしゃったよ。なんだか顔色も優れなかったし、部屋でおとなしくしといた方が良いですよって言ったら、部屋に戻られたけど。……リオン、なにか知ってるのかい?」

「ああ、うん。ちょっとオレがバカやっちゃったせいで」

「はあ? あんたって子はまーた人様に迷惑かけて! 今度はなにをしたんだい?」

「痛い痛い痛い! 拳は痛いって!」

 リオンの頭をぐりぐりと撫でる奥さんにディアナは焦って駆け寄る。

 不用意に瞳を見てしまわないようにと顔は俯いたままお腹から声を出す。

「あのっ! リオンは悪くない、……です! リオンはあたしを助けてくれて、」

ってば、さっきからずーっと同じこと言ってるんですよー」

「……はうるさいっ」

 ちょっと離れたところから野次を入れてくるルナにジト目を向ける。ルナは口元に手を当ててとても楽しげに三人を眺めていた。

「……とりあえずさ、そのメテルさんの部屋に案内してもらうことってできねーかな? きちんと筋を通しておきたいんだ」

 橙色をした頭のてっぺんをさすりながらあかい眼差しでリオンが言った。

 ルナが小声で、……はー、もう知らないんだから、と呟いて嘆息した。

 奥さんは眼鏡の紐をいじりながら考え込むように目を閉じると、少しして片目を開いた。

「揉め事は起こさないでくれよ? まあアンタなら上手くやるんだろうけどさ」

「当然だろ。でもオレは今回ひたすら謝るだけだよ。……で、どこ?」

「二階の突き当たりの右の方だよ。扉に葡萄の絵が描いてある部屋さ。ちゃんと案内してあげるよ」

 奥さんがくるりと踵を返して宿に入っていく。後に続くリオンがどこか面映ゆい表情でその背中に声をかける。

「……本当、ありがとな、フェッテさん」

「そう思うんなら跡を継いでもっといい街にして頂戴な。やんちゃな街長まちおささん」

「……ま、善処するよ」

 リオンは少しの間だけ、痛みを堪えるような顔になったが、すぐに片手を振って笑っていた。

 後ろを歩くディアナからは、その変化はほんの少ししか見えなかったけれど。

 どうしてだろう、と気になった。

 この『イオリスの街』で一番偉いという街長まちおさも、どうやら大変そうな感じのする親の仕事の跡を継ぐということも、ディアナにはよく分からない。物語でなら似たようなことはあったけれど。

 だから実感だけがない。

 それが、少しさみしい。

 もっと分かれたらいいのに。

 リオンのことを。

 この不思議で優しい男の子を。

 奥さんを先頭にして後ろにリオン、その後にディアナとルナが続いて階段を登っていく。

 造りが良いのだろうこの宿は歩いていても軋んだ音を大きく立てることはない。

 明かりは必要な分だけ取られていて夕暮れを過ぎても足元が良く見えた。

 すう、と息を吸って吐く。お腹に力を込める。

 リオンのことは気になるけれど。

 それよりも前に、今はデメテールだ。

 あたしが叱られるのはいい。だけど、どうやったらリオンが怒られたりしないで、優しいひとなんだってちゃんと伝わるんだろう。

 考える間に廊下の突き当たりに辿り着く。右側の扉には手描きらしき葡萄が赤紫の丸枠の中に描かれていた。

 奥さんが、こんこん、と扉をノックする。

「失礼致しますよメテルさん。お嬢さん方が戻って来ましたよ」

 ばんっ! と扉が内側に向かって開いた。奥さんがびくりと肩をいからせてから、さり気なく脇にずれていく。……これが外開きの扉だったら、今頃奥さんは額をしたたかに打ち付けていたことだろう。

 大きく開いた扉の向こうには、デメテール。

 扉の縁に手をかけて半ば寄りかかるように立っている。

 唯一服より露出している白い肌──その頬には紅黒い前髪が幾筋と張り付いていて、表情は眉がきつく寄っていて厳しいのに、半びらきの紅い唇はひどく動揺しているように見えた。

 その紅い瞳がリオンを映し、ほんの僅かみはられる。

 デメテールの手に、きゅっと力が込められたのが分かった。

 一度瞬きをしてから、デメテールは二人に視線を移す。

「──……おかえりなさい、ルゥ、ディナ」

 絞り出したかのような言葉の後で、デメテールは目元を下げて微笑んだ。




 ディアナは床にぺたんと座っていた。

 この部屋に椅子は二脚しかないのだから当然と言えば当然だった。

 ディアナは最初はどっちでも良かったと言えば良かったのだが、デメテールもリオンも椅子に座ることを拒否したので、それにならったのだ。二人が床に座っている中で自分だけ椅子に座るのも、なんだか気持ちとして嫌だった。

 なぜかルナだけはベッドに座っているけれど。なんとなく納得いかない。

 床に敷物は敷かれていない。板張りに直接座っているから膝丈のズボンを履いていても足が結構冷える。隙間風が入ってきたりしていないのは救いだろう。砂がすねに当たってざりっと痛い。

 そしてディアナから少し開いた右隣にリオンが並び、ディアナとリオンの前にデメテールが座っていた。同じく床に直接という形で。

 その状態で、リオンが先に一部始終を話し始めた。それがあまりにもディアナの体験したことと違うから、ディアナは時々、そうじゃないし、と口を挟む羽目になった。その度にリオンも、だから大げさだってと言い返してきた。

 ルナはベッドに腰かけたまま大人しく三人、というか二人のやり取りを最後まで聞いていた。

 デメテールも、ディアナとリオンの気が済むまでずっと黙っていた。

 そしてデメテールは座ったまま、冷たい床に指をついてお辞儀をする。

「ありがとう」

「はい、……え?」

 デメテールは一旦顔を上げて、紅い瞳でリオンの朱い瞳を見つめる。

 リオンはひどく狼狽していた。

「貴方が助けてくれたペンダントは、ディナにとって絶対に必要な、とても大切なものなの。だから貴方がペンダントを救ってくれなかったら、ディナはペンダントを取り戻すために、きっともっと危険なことをしていたと思うわ。……これはルゥもだけれど、わたくしが長い間世間知らずに育ててしまったから」

 だから、迷惑をかけてしまってごめんなさいね。

 そう言ってデメテールはもう一度頭を下げた。

 リオンは更に動揺したのか口を開けて、ぶんぶんと頭を振ってから声をかける。

 その横顔はとても真っ直ぐにデメテールを向いている。

「顔を、上げてください。さっきも話した通り、オレは大したことしてません。むしろ彼女を振り回してお二人に不要な心配を与えてしまったんですから、ご迷惑をおかけしたのはオレの方です。……本当にすみませんでした」

 リオンが深く頭を下げた。

 その肩にデメテールがそっと手を置いた。

「──くん」

 耳に届く声はけして強くはなかった。

 けれどリオンの広い肩はぴくりと揺れ、頑なな雰囲気は消えて頭が上がっていく。

 ああ、デメテールはリオンに『干渉』したんだ。ディアナはすぐに分かった。たぶん、ルナも分かっているだろう。

 デメテールはときに呪文を短縮するどころか、詠唱さえすることなく魔法を使う。どうやっているのかは教えては貰えないけれど。

「貴方の実直さは美徳だわ。でも、全て自分だけで背負おうとするのは良くないことよ」

「……はい」

 リオンが唇をきゅっと引き結んだ。朱い瞳は渡された言葉を検分するように一箇所を見ている。

 デメテールがリオンから離れて座り直し、続けた。

「だからそんなに自分だけを責めないで。非ならこちらにもあるのだから。ねぇ?」

「……っ!」

 ディアナは見えない力で引っ張られるような勢いでリオンからデメテールに顔を戻す。

 心臓が強く鼓動をして、はくはくと唇がわななく。反射的に伸びた背中がさあっと冷えていく。膝の上で握り締めた両方の手のひらが脈打っているのがよく分かった。目頭が熱い。すぐ右隣にいるはずのリオンの気配さえ分からなくなって心細くなる。胸が痛くなる。

 今にも泣いてしまいそうな気持ちのまま、焦りからなんとか言葉を絞り出す。胸が痛みを増していく。

「……ごめんなさい」

「それはもう聞いたわ」

「……ごめん、なさい……」

「貴女がいきなりいなくなって、わたくしがどんな気持ちだったか、わかる?」

 ディアナは動くことが出来なかった。頷くことも首を振ることも出来ずに、静かにそこにいるデメテールを見つめるしかいられない。

 唇を噛み締める。

 自分の感情を優先して、簡単だけれど大事な約束すら破るほどに、デメテールのことを鑑みずに行動していた浅慮な自分には。分かるだとか分からないだとか、そんなことを言って良いとは思えなかった。

 胸が、痛い。

 泣きたくなんてないのに瞳は勝手に涙をためていくのが嫌だ。瞬きをしたらこぼれてしまいそうなのが嫌だ。悪いのは自分なのに、まるで悪くないと無言で主張しているみたいになるのが嫌だ。そんな勝手な自分が一番嫌だ。

 ふと、固く握り締めている左手が、あたたかさに包まれる。

 それはディアナがよく知っているあたたかさだった。

「約束が守れなかったことなら! ……わたしも、同じだから。だからわたしも叱られるから。ディアナのことはわたしが先にいっぱい怒ったから、ディアナのことはもう許してあげて」

 右隣から低い控えめな声が聞こえる。

「……オレが言えた義理じゃあないですけど、それくらいにしてあげて貰えませんか、メテルさん。やっぱりオレにも非があることですから」

 涙がこぼれた。

 こらえきれない。我慢はもうできない。

 涙はぽたぽたと膝の上に落ちて服にしみを作っていく。

 胸はしめつけられるように痛い。

「ごめんなさい……!」

 服の袖で拭うけれど間に合わない。罪悪感はぬぐえない。同じことしか言えないのがもどかしい。なのに他になにをどう言えばいいのだろう。間違えたからとやり直せるはずもないのに。

 泣き続けるディアナを目を細めて見つめていたデメテールは、額を押さえると肩で大きく息を吐いた。どこか芝居がかった調子で。

 顔の横を流れる髪を耳にかけて苦笑する。狡い子たちね、と独りごちて。

「ディナ」

「……っ、はい……」

「もう一度わたくしと約束を出来る?」

「──はい」

 ディアナは喉をひくつかせながら返事をした。ぐしぐしと何度も腕で顔をぬぐい、赤くなった目でそれでもきちんとデメテールを見つめる。

 デメテールは僅かの間表情を張り詰めると、紅い瞳でリオンを見やってからディアナに視線を戻した。

 眉を下げて、何故か寂しそうにデメテールは微笑む。

「絶対に、ひとりだけでいってしまわないで。……お願いよ、



 一応の話が終わったところで、リオンは帰らなくていいの? とルナが明るい声で言った。それまでの湿った雰囲気を吹き払うように。

 それからデメテールとリオンがいくつか言葉を交わし合って、またお互いに頭を下げ合ったところで、

「もういいから行こう! わたしたちも下まで一緒に行ってあげるから! ねっ!」

 と、ルナがリオンとディアナの腕を引っ張り、半ば引きずるような形で強引に部屋を後にした。扉が閉まる寸前に、デメテールがくすっと笑ったのがディアナには聞こえた気がした。

 迷惑になるからと走らずに、けれど一気に階段を降りてカウンターまでを通り過ぎる。

「ちょっ、待っ、挨拶っ!」

 というリオンの声はルナに無視されて、結局宿の外まで引っ張り出された。

 外はいつの間にかとっぷりと暮れていた。

 三日月とたくさんの星が煌々と輝いていて、雲のない空は明るい紺色だ。

 夜の空気はひんやりとしていてそれだけで肌寒い。思わずシャツ越しに腕をさするほどに。

 宿の裏にある厩舎きゅうしゃからだろう、馬が干し草を食べるような音がする。

 遠くから聞こえたのはふくろうの鳴き声だ。『テーマパーク』にいたものだろうか。

 そんな中でルナが後ろで手を組んで言った。俯き加減に薄く笑いながら。

「なんか、ごめんね、リオン」

「あー……こっちこそ悪い。家族の話に首突っ込むようなマネしちまってさ」

「ううん。ディアナのこと、かばってくれてありがと」

「……ありがと」

 ルナの方に寄り添いながら、その肩口に額をうずめて、その腕にしがみつくようにしてディアナが言う。小さなささやき声にしかならなかった。どうしても顔は上げられなかった。

 だってデメテールに叱られるところも、小さな子供みたいに泣くしか出来なかったところも、リオンに全部見られた。今日初めて会った人なのに。

 街の人間にとっての普通なんてぜんぜん知らないけど、こんなに色々見られることなんて、絶対に普通じゃない。たぶん。きっと。ううん絶対。

 恥ずかしさで熱くなった耳が冷たい外気でじわじわと冷やされる。不思議な感覚だ。森にいたときには味わったことのない変な感覚。

「……千切れたペンダントのチェーン、さ。あるだろ?」

「うん……」

「えっディアナあれ壊してたの!?」

「わ、わざとじゃないもん! 盗られたときに壊れたの!」

「でも言ってなかったじゃん! どうするの!?」

「う……っ」

「落ち着けよ、ルナ。ディアナも泣くなって」

 リオンが困ったように手のひらを向ける形で肩まで上げて気を引いた。

 二人がリオンの方を見ると、リオンは胸元から自身のあかいペンダントを取り出して、そのチェーンを外した。

 月明かりに照らされる

チェーンの色は、深みのある赤銅色。

 リオンはペンダントに付いていた朱い石をポケットに入れて、チェーンを持った手をディアナへと差し出してくる。

「一応オレでも紹介状みたいなのは書けるからさ、こういう貴金属の修理が得意な店をまとめて、明日にでもフェッテさんに渡しとく」

 だから直るまでの間、代わりに使っていいぜ。

 なんだか照れくさそうにリオンは口端を上げている。

 ルナはリオンとディアナを交互に見ると、こそっとディアナに耳打ちした。受け取ってあげなよ、と微笑んで。

 でもディアナの中にはそれを受け取る理由はなくて、今からでもリオンから隠れたいくらいに恥ずかしくていたたまれなくて、だから無理だよと言おうとするのに、ルナはディアナの手を強く取る。いいから、とせっつくように。

「……リオンだって無いと困るでしょ」

 だからディアナはルナに引っついて不器用な言い方しか出来なくなる。

 けれどリオンは気にしたふうもない。

「オレは家に帰ればおんなじのあるし。でもオマエのは一点物……えーと世界にひとつしかないやつだろ?」

 デメテールが創ったものなのだからたぶんそうだろうと思ってこくりと頷く。

「じゃ、ちゃんと直して使ってやらねーとダメだろ。……どこにでもあるグラスに心があるんなら、オマエのペンダントにだって心はあるだろうからさ」

 ディアナは何も言えなくなった。

 リオンの言う通りだからだ。

 この月長石ムーンストーンにも繋がれていたチェーンにも、心はある。ディアナが『名前』を付けてやれば、きっとすぐにでも魔法で干渉が出来る程度には。

 だからディアナはおずおずと両手を伸ばして受け取った。

 チェーンはしゃらんと鳴って手のひらの上で渦を描く。外気で冷えているのに、でもリオンが身につけていたせいかぬくもりも感じられて、それがなんだかくすぐったかった。

 ベストのポケットにしまっていた月長石ムーンストーンを取り出して、赤銅色のチェーンを通す。

 石が胸の前に来るように調節して留め金をかけて下ろした。

「似合うじゃん」

「ほんとだ!」

「……ありがと」

 恥ずかしさでむずつく唇を持ち上げてぎこちなく笑ってみせれば、リオンもルナも嬉しそうに笑ってくれた。

 月の光に照らされて、胸の月長石ムーンストーンは透きとおるようなみどりに輝いていた。




 翌日。

 朝食のために、デメテールとルナとディアナが宿のカウンターの前を通り過ぎかけたとき。

「おはようございます、メテルさん。預かり物ですよ」

 にこにことしている奥さんが声をかけてきた。

「ありがとう、フェッテさん。昨夜はお騒がせしました」

「いいえぇ、大したことじゃありませんから」

 デメテールが足を止めて頭を下げると、奥さんは片手を振りながらなんてことのないように言う。

 デメテールは礼を言い、差し出されたそれを受け取ると、不思議そうな顔になった。

「……手紙? どなた様からかしら」

「リオン……イオリス様のとこの坊っちゃんからですよ。皆さんに、っていう手紙と、紹介状だとか」

「紹介状?」

 デメテールはますます不思議がる。

 そういえば、とルナとディアナは小声で会話する。

「ねぇディアナ」

「まだ言ってない……」

「だよね。どうするの?」

「どうしたらいい?」

「わたしに聞かないでよ」

「だよね……」

 後ろでこそこそと言い合う二人にデメテールは気づき、どうしたの? と尋ねれば二人は声を揃えてなんでもないと言い切った。ディアナは首からかけている服の下のペンダントが重くなった気がした。

「これとこれは、ルゥとディナ宛ね」

「「え?」」

「リオンくんから貴女たちへの手紙よ。よかったわね」

 差し出されたのは封筒がひとつ。

 紙の表面に刷られているのは、どこか高い場所から見下ろした、建物や緑がたくさんある風景だ。目をらせば見覚えのある大きな時計台もあった。

 封筒の真ん中には『ディアナへ』と短く書かれている。

 どくん、と胸が鳴った。

 なぜかぴりぴりと緊張する手で封筒を裏返せば、隅の方に『リオン・ネリア・イオリスより』と書かれていた。地図で見た覚えのあるような地名が署名の下に書かれていて、そこにリオンの家があるのだろうと分かった。

 少し右上がりな癖のある文字が、なんだか意外なようにも、彼らしいようにも思えて、ディアナは文字を撫でながらそっと微笑んだ。

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