第7話

林の先にあったのはもう一つの砂利道だった。

そして、左右を見渡すと、左は遠くまで続いたが、右はすぐそこに壊れた柵があった。

柵に近づくと、レールが一組あるのを認めた。

「……何だこれ? 線路か?」

更にもう一回左右を見渡すと、右は、

「あれは……きさらぎ駅、かな……?」

古びたコンクリートのホームが遠くに見え、左は、

「何あのトンネル……怖い」

"出る"と言われたら出そうな真っ暗なトンネルだった。

三人が両方確認し終わると、背後に明確な気配を感じた。

「誰だッ!」

振り返ると、そこには片足がなく、表情も一切無いおじいさんがいた。

三人の顔が青ざめる中、おじいさんはしわがれた声を発した。

「……はしレ、アノとんねるヲ」

おじいさんは暗いトンネルを指さした。

「え、え?」

三人が戸惑っていると、おじいさんは一歩一歩近づいてくる。それに従って三人も後ずさる。

そして、線路の砂利を踏むと、おじいさんは低い声で叫んだ。

「サア、とんねるヲはしレ! 絶対ニ止マルナ……!」

「え、え……あ、はい……」

三人は気圧されて走り始める。


真っ暗なトンネルのわずかな隙間を走っていく。

「暗っ!」

何故か声が響かないトンネルで声を発すると、

「あっ……」

という岩永の声が聞こえたが、後藤は恐怖で振り返る事が出来なかった。


すると、突然トンネルが明るくなり、

「電車ァ!?」

電車が避ける時間もなく迫り、

バァァァン!

という何かがぶつかる音がしたが、やっぱり後藤は振り向けなかった。


やがて、後藤の目の前に待ち望んだ光が広がる。


───────────────────────


「ぐっ…………はっ! な、なんだったんだ……? 夢か?」

後藤は目を覚ました。

夢だったかもしれない。それもとびきりの悪夢。

証拠として、後藤の体からは夏の暑さによるものではない汗が吹き出していた。


後藤はなんとなく、自分の意識をはっきりさせまいとした。

だが、体は脳の命令を無視して意識を明瞭にさせていく。

ジャリッ

「痛っ」

遅れて、尖ったものに触れた感触が伝わる。

「なんだ……これ……砂利? なんで……オレ電車に乗ってたよな?」

しかし、適当に小石を一つ手に取ってみるが、やっぱり小石だった。

後藤の意識はまだはっきりとしないらしい。なぜなら、視界にもやがかかっているからだ。

しかし、大きく空気を吸い込むと

「ゲホッゲホッ…………これ、煙だ……」

幸い後藤がいるあたりまでは煙は充満してなかったが、上空は灰色の雲によって覆われ、まるで夜のようになっていた。


後藤は這いながら、周りを見渡すが、視界が悪いので手も加わった。

しかし、その手はある一点に来ると、急に止まった。

グチュッ

(グチュッ?)

ぶにぶにしたような不思議な感触に後藤は振り向こうとしたが、彼は一旦首を止めた。

(なんか、振り向いちゃいけない気がする……)

けれど、彼は振り向いた。


(え、これって……血?)

ぼやけた視界を自分の手に焦点に合わせる。


絵の具では決して出せない色、血。


変わり果てた……自分の友人。


「う、う……あ……」

後藤は叫ぶ事すらもできない。


現実から目を反らした後藤に待っていたのは……、片思いなれど、愛する人の死体。

折れた架線柱に頭を……潰されている。


「………………………………………………………………………」

後藤はもはや何も言えず、呆然と救急車のサイレンの中、座り込んでいた。

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