第6話
「なあ……さっきまで昼だったのに、なんでもう夕方なんだ?」
後藤は暗くなっていく過程をすっ飛ばした土の道を見てそう言った。
「……知らねえよ……」
三上は気味が悪くなって、汗を握りながらそう言った。
遠くで太鼓と鈴の音がする。
「日が暮れたら……歩けねえ」
四人は道の周りに灯りになりそうなものが一切無いのを認めて、歩くスピードを上げていく。見知らぬ土地をかなりの距離歩いていたので、四人の足は疲れていたが、誰一人として文句は言わなかった。
背中を追い立てられるように小走りになる四人だがら日が暮れる方が先だった。
「は、速くない!?」
村田は太陽の方を見てそう言った。
太陽はふと一瞬目をそらしただけでものすごい目に見えて地平線に近づく。
「はぁ……はぁ……はぁ……。う、うん……おかしい……ね……」
岩永はそう返事をするが、すでに、息が上がっていた。四人で一番運動を苦手としているからかもしれないが、恐怖に駆られながら走っているるせいで三人の顔にも疲れの色が見えていた。けれど、四人とも走る気力は衰えなかった。
岩永は人間の恐怖本能ってすごいな、と思った。
「はあ、はあ、はあ……。もう走れねえ……」
後藤は疲れ果てて砂利道の前に座り込んでしまう。
「はあはあはあ……。」
岩永は自分の体力の限界を遥かに越えて走っていたので、もはや何も言うことが出来なかった。
「はあはあ……。…………ん? こ、ここは……」
同じく疲労困憊だった三上だが、膝に手をつく過程で見えた建物に目をやる。
「なんだ? ……あ」
そんな様子の三上を見た後藤はその視線に自分の視線を合わせていく。
「あ、さっきのお寺じゃん」
村田の言う通り、二人の視線の先には先ほど通った石像ばかりのお寺だった。
「入ってみるか……?」
後藤が遠慮がちにそう聞くと、
「…………ああ、他に道も無さそうだし、泊めてもらうか……」
三上は顎に手をやりながらそう答える。
「でも、さっきは人がいなかったよね?」
と村田が首を傾けながら問うと、後藤は
「いや、このお堂結構きれいだから、中の人出かけてただけかもしれないぞ……。俺らずっと走ってきて疲れたし、泊めてもらわないか?」
そう聞いた。
「……うん。私も……疲れた……」
「オッケー」
という返事があったので、後藤は扉に手をかけて、
「すみませーーん」
開けた。
「ヒッ」
そこにいたのは、残念ながら人間ではなかった。
ただの石像、でもなかった。
そこにいたのは、
顔が上下逆さまになって、角が生えて、口角を薄気味悪く上げている、石像たち……
後藤はしりもちをついて、思いっきり後ずさる。
「カエセ……。ワタシノ、オットヲ、カエセ……!」
石像の口がガクガク動いて、聞くだけでゲロを吐きそうな声でそう叫ぶ。
「あ、あ、ああああ……うわああああああああああああああああ!」
四人は怖くなって、全速力で逃げ出した。
逃げる四人の背後にゴスッ、ゴスッという鈍い音が張り付いて、なぜか響く。
「ね、ねえ……追ってきてない!?」
「し、知らねえよ!」
村田と後藤は怖くて後ろを振り向く事は出来なかったが、その音で『追われている』と判断した。
四人が走る道は一本道だ。このままではきさらぎ駅のところで捕まってしまう。
そう考えているうちにも、足音は少しずつ近づいてくる。
「くっ、林に突っ込むぞ!」
三上は苦渋の表情をして、思いっきり左に足の舵を切る。それに続いて三人も林に入る。
林に入れば、その大きな図体が木に引っかかるかと思った三上だが、
「くそっ。まだ付いてくんのかよ……」
そう漏らした。足音はやはり背中に少しずつ近づいていく。
四人は夢中で林の中を走った。
しかし、中々振りきれない。むしろ近づいているかもしれなかった。
道なき道を走っていく。
「きゃっ……」
消え入りそうな悲鳴を上げたのは、岩永。その声に振り返ると岩永は木と木の間にあった段差につまずいて転んでいた。
その先には、顔が逆さまの仏像が「しめた」と口を開いた所だった。
「クソッ」
三上は限界の近い足で思いっきりターンすると、岩永の前に立ちはだかった。
「やい、クソ石像め! こいつを食いたきゃ俺を食ってから行け!」
と言って、石像の視線が三上の瞳に合うのを確認すると、力いっぱい左に駆け出していく。三人に向かって手を「あっちいけ」と言うようにして。
石像は三上をロックオンしてそれについていき、三人は取り残されていく形に。
「……どうしよう……」
村田の声が、無音になってしまった林に響く。
「うう……どうして……」
こけた当の本人である岩永は座ったまま涙を流し始めてしまった。
「お、おい……なんで泣くんだよ。か、帰ってくるかも知れないだろ?」
後藤は岩永を慰めるが、どうすればいいか悩んでいた。
「これからどうするの……?」
村田が心配そうに言う。
「うーん……どうするってもな……やっぱこのまま歩くしかないんじゃね?」
後藤は言葉を濁しながら言って、
「さ、とりあえず行こうぜ? 案外、健は平気そうな顔して待ってるかもよ?」
と言って、岩永の手を引っ張った。
三人は歩いていると、薄暗い林の先に幾分かの光明を見出だした。
「「「出口だ!」」」
三人は声を揃えて駆け出した。
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