第5話
「なんにもないねえ」
村田が言うように、駅の周りを囲うように山があるだけだった。まあ、駅の外側にわずかに平地があるのだが。
「反対行きの、列車は……」
駅にはホームはおんぼろの屋根が一部だけについているだけで、高い陽の光を遮るものはほとんどない。
岩永が屋根の下の時刻表を覗く。
「えっと……」
紙は黄ばみきっており、手書きでかかれていた文字はかすれていて読めなかった。
当然無人駅な訳で、暑い中、四人は駅の中で手がかりを探し続けた。
「何もないのか……」
「しょうがない。駅の外に出ようぜ」
後藤は小さな駅舎の方に歩いていく。
「公衆電話とか……ない、かな……?」
「ていうか、ケータイ持ってくれば良かったぁぁぁ」
「うーん……、ここが、異世界なら、使えないんじゃ……ないかな……」
「そっか……」
「くっ、暑い……」
四人は砂利道を歩いていくが、道の周りには木が生えているだけで何もなかった。
「家一つねえよ……」
太陽に焼かれ続けている四人の喉はカラカラだった。
ふと、目の前にボロボロの自販機を見つける。
「動くか?」
「わからん……。百円入れてみるか」
銭入れの奥に入った音がした後、パネルが光った。
お茶を選ぶと、ガコンという音を立てる。
「はあ~……生き返るなぁ……」
嘆息を漏らしながら喉を鳴らす。
「んじゃあ俺も、って……全部売り切れじゃねえか!」
全てのパネルには赤い文字が書かれてしまっている
「……健。ちょっとでいいから分けてくれねえか?」
「……しかたないな……。ほらよ」
三分の一程飲まれたお茶のボトルが突き出される。後藤は受け取ろうとするが、
スカッ
見事からぶってしまう。
「え? どうした?」
もう一度やってみるが、その度にボトルをすり抜けてしまう。
「どういう事だ?」
二人の頭に疑問符が浮かぶ。
「何してるの? 二人とも」
「お茶が触れないんだ」
後藤が手をブンブン振ってみせる。
「ええっ! すごいすごい! ウチもやる!」
村田が手を振るとやっぱりすり抜ける。
「りんりーん、面白いよこれ!」
呼ばれた岩永はおずおずと手を出すが、やっぱり触れない。
「なんで、触れないんだ……?」
それを考えながら、歩いていると不意に村田が声を上げる。
「あ、建物だっ! お寺だよ、お寺!」
「ホントだ!」
人工物に飢えていた四人はそのお寺に向かって走っていく。
お寺は門とかはなく、扉が閉じられているお堂だけだった。
「すいませーん! 誰かいませんか?」
後藤が声を上げるが、なんの反応もない。
扉を叩いてみるが、反応はない。
「どうする? 開ける?」
「このままじゃ、らちが開かないから開けよう」
扉を開くと、そこには一体の女の石像の横、左右四体ずつ石像が立っていた。
「なんで、お堂の中に石像があるんだ?」
「さあ……」
しかし石像と話すことはできないので、四人は諦めて探索を続ける事にした。
「ホントになんにもないよなぁ」
後藤はそんな感想を述べて歩いていく。
「あ、行き止まりだ」
山の急斜面の手前で道は途切れていた。
「どうする? 分かれ道は一個もなかったぞ? ……林の中に入るか?」
「林の中に行ったら、迷って帰ってこれなくなるだろ」
「そんじゃ帰るか……」
四人は仕方なく来た道を引き返す事にした。
太陽が傾き始める。
「ところで、今何時だ?」
四人で唯一腕時計を持っていない後藤が尋ねる。
三上は黒い腕時計を覗く。
「……21:08だが?」
「え? まだ夜になってないぞ?」
「まあ、そうだが。ここは異世界だし、時間がずれててもおかしくはないだろう?」
その会話を聞いていた岩永は唸っていた。
「…………うーん……」
「……どうしたんだ?」
後藤が覗きこむと、
「岩永のは……18:17……」
岩永のアナログ時計は下と右を指していた。
「私の……23:50なんだけど……」
村田が心配そうに言う。
四人は帰りながら、その理由について考えてみたりもしたが、答えはついに出なかった。
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