第4話

「どこに行くんだよ、この列車……」

後藤は心底不安な様子で呟く。アナウンスもなく路線図も電光掲示板も宣伝すらも全くなかった。

窓の外は白い霧のようなもので覆われていて全く見えない。

後藤はさっきから三人を起こそうとするが、全然起きる気配はない。


やがて、窓の外が真っ暗になり、籠った音がするようになる。

「またトンネルか……」

さらに陰鬱になっていく後藤だが、隣に座っていた岩永が目を覚ました。

「う、うーん……ここどこ……?」

「!! 燐子!? 大丈夫か!!?」

その声に反応して顔を向けると、

「え? う、うん……大丈夫だよ……?」

岩永はそう答えた。

「俺は誰だ?」

さっきの事があったので、岩永にそう訊いてみる。

「え? え? 貴志くんでしょ?」

「そう、そうだよ! 俺は後藤貴志だ! あははっ!」

その答えに安心して軽く笑う後藤。

それがうるさかったのか、

「う、うぐ……はっ! ……寝てたのか……」

「むにゃ…………あれ? ウチ、もしかして寝ちゃってた?」

三上と村田も目を覚ました。

「うん? ここどこだ?」

意識がはっきりしてきたらしい三上がそう疑問を呈す。

「トンネルじゃないの?」

「いや、双川から堀江にトンネルなんてないぞ……。弥生まで寝過ごしたとしてもな」

「そうだね……あの辺って、平地ばっかりだもんね……」

「まあ、逆まで行ったらわからないが……」

あっという間に推理を進めていく三上を見て、頼もしさを感じて後藤はホッと息をついた。そして、一人だけ会話に入らないのも寂しいので、会話に参加していく。

「なあなあ、電車変わってないか?」

「そうだな。……いくら寝ぼけてても電車をちゃんと乗り換えられるとは思えないからな」

「あははっ。そうだねぇ」

「でも……、こんなに、古い電車って見たこと、ない、かも……」

「そうなんだよな。この列車って、全部木製なんだ。そんなの博物館にでも行かなきゃ見られない」

「つまり、どういうことだ?」

「俺たちは不可思議な所をさ迷ってるって訳だ」

三上はそう結論づけた。

「ねえ、ウチ運転士さんに聞いてくるよ」

「!! ならオレも行く」

村田が歩き出したのに合わせて後藤は慌ててついていく。


「なんでこの電車誰も乗ってないんだろ」

「……不気味だな」

後ろに倒れそうになりながら五両分前に移動するが、誰一人として乗っていないのだ。

灰色のカーテンのかかった窓をノックしてみる。


「誰もいないよ?」

「ああ……いや、あれ見ろよ。勝手に動いてるぞ……」

目を凝らしてみるが、運転士はいない。だが、ハンドルは勝手に動いていた。まるで誰かが操作しているかのように。

おまけにトンネルの中に照明の類いは全くなく、出口も見えず、曲がっているのかさえ分からなかった。


「誰もいなかったよ……」

村田は下を向きながら言う。

「……変だな。こんな古いから自動運転なんかしている訳ないのに……。さっき見たら車掌もいなかったし」

「なんにも分からずじまいって事か?」

「うん……しょうがないよ……」


それっきり黙り込んでしまった四人にスピーカーからの声が聞こえる。


「まもなく、きさらぎ、きさらぎィ~~」


「きさらぎ駅? どこだよ……。そんな駅この世にねえよ……」

「……本当に?」

「私たち、異世界にでも、迷い込んじゃったのかな……? 幽霊とか、出ちゃったりして……」

「ワアアアア! や、やめろォォ!」

岩永がそう言ったのに対して、後藤が絶叫する。彼は夜闇は大丈夫だが、幽霊やお化けとなるとまるっきりダメなのだ。

「まだそう決まった訳じゃないよ? タカシ」

頭を抱えてしまった後藤を村田がなだめる。


長かったトンネルが終わり、車内が突然真っ昼間の太陽光に覆われる。

電車は減速して、小さなホームに停まる。

「ご乗車ありがとうございました、きさらぎ、きさらぎです。この列車は……………行きです」

特徴のない声が響いた。行き先はノイズのせいで聞こえなかった。

「どうする? 降りるか?」

三上が開きっぱなしのドアを見つめて言う。

「怖いし……ウチは降りたいかな」

「降りた方が……いい……」

当然、視線は一人だけ未回答の後藤に集まる。

「いやだ。だ、だだだって、ゆゆ幽霊とか出るだろう?」

後藤が断ろうとすると

「何を言ってるんだ……乗ってても出るかもしんないぞ?」

「ほらほら、置いてっちゃうよー?」

三上と村田に急かされて外に。

四人は割れかけのコンクリートで出来たホームに降り立つ。

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