廃墟で吼える首無騎士⑤

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「えぇっ、ちょ……ッ!?」


 思わず漏らしてしまった困惑の声は、直後に押し寄せてきた不調の波によって、掠れた呻き声に変わってしまった。


 身体が重い。頭の中で、誰かが鐘楼の鐘をぐわんぐわん鳴らしているみたいだ。魔力切れの兆候だ。魔術師にとってはお馴染みの感覚ではあるものの、まだまだひよっこなアネモネにとっては、"顔だけ知っている人"程度の馴染みでしかない。張っている気を抜いてしまえば、それだけで気絶してしまいそうだ。


「うぅ……ッ」


 でも、勿論気絶する訳にはいかない。


 マリオンに掛けた風の加護。マリオンに魔物の間合いへの侵入を許す一因となっているこの援護を、絶やす訳にはいかないからだ。呪文を唱えて居なくても、気を張り続けていれば加護の効果を継続させる事が出来るとは言え、いつ何時なんどき状況が悪い方向へ転がるか分からない。そんな訳で、アネモネは二重に緊張して状況を見守らなければならないのだが、これが結構、いやかなり、キツい。マリオンが自ら魔物に突撃し始めて、アネモネの心臓にダイレクトアタックを仕掛け始めたものだから、余計にキツい。


(時間を稼ぐだけって言ってたのに、もう……!)


 勿論、彼女の気持ちも分かる。アネモネだって、リオルやホムラが魔物化したら、あれくらいの事は絶対やる。


 ましてや、だ。マリオンが一発殴り付けると、ホムラの攻撃にさえビクともしなかった魔物の巨体が大きく吹き飛ばされて、軽く苦しむような素振りを見せた。ダメージ自体が入った様子はなかったが、よもやと思ってしまうのも分かる気がする。傍らで見ているアネモネも、ちょっと期待してしまったくらいだから。


 でも、魔物はまだまだ全然平気そうだった。そして逆に、アネモネはもう限界寸前だ。このまま行けば、先ず間違いなくアネモネが真っ先にダウンする。そうなればマリオンは加護を失い、魔物は羽をもがれた虫をそうするみたいに、マリオンを叩き潰すだろう。


「早く……!」


 状況がいつ変わるか分からないから、アネモネはマリオンから目を離せない。そもそも意識を、彼女以外に向ける事が、前衛を支援する者としては失格なのかもしれない。


 でも、もう限界だ。せずには居られなかった。


「ホムラ……!」


 朦朧とした意識の中、都合の良い英雄の登場を祈るような心境で、アネモネは彼の名前を呼んでいた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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