第4話 冬(2)

街並みはイルミネーションで飾られ、すれ違うカップル達は身を寄せ合っている。


ベルを鳴らすサンタの玩具だったり、大音量で流れるクリスマスソングがもうすぐ来るクリスマスを待ちわびているように感じた。


元喜から「帆夏に渡すクリスマスプレゼントを買うのに一緒来て欲しい」と俺は頼まれ、男二人で買い物に来ていた。


バスで二十分程走り、徒歩で十分程歩いた所にある大型のショッピングモールで、中も外もカップルばかりが歩いている。


たまに家族連れの姿を見かけるが、殆どが人目を気にせずにイチャつくカップルがやけに目に付いた。


「よく人前であんな事できるよなぁ」俺は感心するように言うと元喜は「あれも愛情表現の一つなんでしょ」と淡々と答えた。


元喜は最初から買う物を決めていたのか、店に入るとすぐにグレーのマフラーと白い手袋を手に取り悩む事なく買い物を終わらせた。


予想よりも早く買い物が終わったので、近くのフードコートで休憩する事にした。


目的地まで二人で歩いていると、前には帆夏とそのお母さんであろう人が店の前に立っていた。


「あれ? 帆夏じゃん」


俺が呟くと元喜は俺の手を引っ張り、その店から遠ざかるように早足で歩き出した。


少し離れた所で元喜は「ふぅ。危なかった」と胸を撫で下ろした。


「あれ元喜のクリスマスプレゼントだな。絶対」俺は自信を持って言うと「そうじゃなかったらショックだから言わないで」と元喜は嬉しそうに微笑んだ。



フードコートで揚げたてのポテトを食べながら元喜は俺に訊いた。


「大地はクリスマスプレゼント買わないの?」


「誰にだよ。俺、彼女いないし」


俺は冷めた目で元喜を睨み付けた。勿論冗談ではあるがしっかり殺意は込めてやった。


「別に彼女じゃなくても上げるでしょ。大地はあれこれ考えすぎだよ」


元喜はいつも直球勝負なだけに、思い付いたらすぐに行動するのが当たり前になってる。


そのせいなのか、俺があれこれ言うのが気に喰わないみたいだ。


確かに彼女じゃない人にはプレゼントを買っては駄目!なんてルールはどこにもない。


でも上げないと駄目ってルールもないと言おうとしたが、言い出したらきりがないので俺は「そうだな」とここは素直に頷いた。


「よし! なら買いに行こう!」


俺の買ったポテトを口いっぱいに頬張りながら元喜は立ち上がった。


「おい待てよ!」俺は元喜を呼び止めたが既に聞いてはいない。


仕方なく元喜の後ろを追いかけ色んな店を見て回った。


タイムセールの宣伝をする声や、クリスマスフェアを大々的に宣伝する声などショッピングモール内は賑わっていた。


「これなんかどう?」元喜がふと手に取ったのはニット生地の帽子だった。


白い毛糸で出来たその帽子の上には可愛らしいポンポンが付いていた。


俺は女性の好みは良くわからないが、個人的にこの帽子を被った女性の姿はたぶん好きだ。


プレゼントを決める理由なんてそれで充分だろう。


「よし! それにする!」俺は即決した。


「で? 誰の被ってる姿を想像したの?」俺は元喜の一言で気付いたが、その白い帽子を被っている姿を想像したのは歩実だった。


「歩実?」俺は自分に問い掛けるように曖昧な答え方をした。


「つまりそういう事なんだよ」元喜はなぜか嬉しそうに言った。


商品を購入しラッピングしてもらっている間、店内を見渡しているとずらっと並ぶアクセサリーを見付けた。


蝶の形をしたネックレスがやけに可愛く、なんとなく眺めているとラッピングが終わった商品を持ち、店員さんが話し掛けてきた。


「お待たせ致しました。こちら商品になります」丁寧な口調で接客してくる店員さんに頭を下げ「ありがとうございます」とお礼を言う。


「アクセサリーで気になるのがございますか?」店員さんはにこやかな笑顔で訊いた。


「いや、これいいなって思って」俺はそう言うと、蝶のネックレスを指差した。


「これ可愛いですよね! 私も似たような形のネックレス持ってるんですけど、結構何にでも合わせられていいですよ。彼女さんへのプレゼントですか?」


「あ、いや、彼女ではないんですけど」俺は濁しながら言うと「これからなるんですね」と店員さんは微笑んだ。


そのネックレスが気なって仕方なかったので、迷った挙句買って帰る事にした。


店を出る時、店員さんが「気に入ってくれるといいですね。頑張ってくださいね!」となぜかエールを送ってくれた。


用事を済ませた俺と元喜は、エレベーターに乗り一階まで下り外へと向かった。


その途中俺はある物が目に入り、元喜に「ちょっと待ってて!」と言ってその気になる場所に行き、用事を済ませた。


元喜は「どうしたの?」と訊ねるが説明するとややこしくなるので「何でもない」とだけ言っておいた。


今頃家で暇にしている航に連絡し、家にお邪魔する事にした。


そもそも買い物には航も誘ったのだが「人混み多い所は嫌だ」と言って聞かないので、仕方なく元喜と二人で行く事になったのだ。


家に着くと元喜は一目散に航の部屋に入り、ベッドへ飛び込んだ。


いつものように航から叱られるが、そんなの気にせず今日あった話を楽しそうに航に伝えている。


あまりにも無邪気に話す元喜を見て航も怒る気が失せたのだろうか、黙って話を聞いている。


「二人はクリスマスのイベント行くの?」元喜が訊ねた。


「なにそれ?」


俺は引っ越して初めてのクリスマスなのでそのイベントの事は知らなかった。


「クリスマスの日に今日行った所で巨大なクリスマスツリーの点灯式やるんだよ! イベントって程じゃないけど、殆どのカップルがそれを見に集まるんだよ」


「お前、帆夏と行くのか?」航が言った。


「一応ね。まだ誘ってないけど」


それから俺達は元喜のクリスマスデートについて話し合った。


「クリスマスプレゼントは自分にリボンだろ」航が自身満々に言う。


「ないね」俺と元喜は二人合わせて横に首を振った。


「大体今日プレゼント買ってきたし」俺は付け加えるように航に告げた。


「デート当日は蝶ネクタイが鉄板だからな」航が又してもふざけた事を言う。


「それもない」二人の声が揃う。


その時、下の方から航を呼ぶ声がした。


声の主は恐らく航のお母さんではないだろうか。


航は部屋から出ると何やら階段に向かって話し、「お客さん来たわ」と言いながら部屋に戻って来た。


「じゃあ俺達邪魔だし帰るわ」俺はそう言って荷物を抱えようとすると「お疲れ!」と人一倍元気な声で挨拶してくる夢の姿があった。


「なんだ、お客さんって夢か」俺が呟く。


「なんだとはなんだ。失礼だな! 今日は寂しい航と大地にお知らせがあって来ました!」


なんだか夢はいつもよりハイテンションな気がした。


「別に来なくてよかっただろ」と航が小さな声で言っているのを夢は聞き逃さなく、バシッと肩を叩くいい音がした。


「それで何なの?」俺は訊ねた。


「クリスマスの日、イベントには四人で行く事に決まりましたぁ! はい、拍手!」


元喜が夢の要望に応え、二人で拍手している。


「また勝手に決めやがって」航は不満そうな顔をしている。


「航そう言ってるけど、毎回嬉しそうじゃん」夢は不満を漏らす航に向けて言った。


「別に嬉しそうにしてねぇよ!」珍しく航は声を張る。


その表情は俺にもどこか嬉しそうに見えた。俺達は既に知っていた。


航が極度なツンデレである事を。


この日は珍しく航がいじられ続けた。

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