第1話 春(4)
朝日の光で目を覚ます。
どうやらカーテンを閉めずに寝てしまったようだ。次の日、学校に着くとすぐに夢が俺の所に来た。
「昨日はどうだった? 仲直りできた?」
「仲直りは出来たよ」
俺は暗い声で答えた。
「何かあったの?」
夢は心配そうに尋ねてきた。
「まあ、ちょっとね」
俺は意味深のようにはぐらかした。
心配に感じた夢は、元喜と航に相談したみたいだ。
夢と元喜は面倒見がいいので、こんな俺をほっとけないようで、休憩の合間も絶えず俺を気に掛けてくれていた。
航は興味が無い事には一切関わってはこなかった。
お昼になり、いつもの様に屋上に向かう俺。今日は雨が降っている。
雨の日はいつも屋上の踊り場食べるのが決まりだった。
この日も踊り場で弁当広げて食べていると、いつも俺より早い航が今日は珍しく遅れてやってきた。
ゆっくり腰を下ろし俺の向かいに座り弁当を広げ始める。
俺達はいつも特に会話はしない。お互いそれが楽だし相手に関与しないのが俺達の暗黙のルールでもあったからだ。
だがこの日は珍しいことが続き、航が口を開く。
「お前、歩実の事好きだろ?」
口いっぱいに唐揚げとご飯を頬張る俺に航は言った。
俺は一瞬むせ返しそうになったが必死に堪えた。航は汚ねぇよ、と言いながら俺を笑っている。
「なっ、なんだよ。いきなり」
いきなり不意を突かれた俺は、焦りを必死に隠そうとした。
「お前分かり易すぎ、まぁ皆には黙っといてやるよ」
全てを見透かしたように航が言う。
「いつから知ってた?」
「たぶん最初から」
航はいつも周りをよく見ていた。
日頃感じた事は口に出さないが人間観察、分析においてその才能は一頭地を抜いていた。顔が一気に熱を帯びて、体中の気温が急上昇しているのが分かる。
体の火照りを無理矢理抑えようと冷静になる。
すると俺はある事に気付いた。航は皆に黙っとくと言った。という事は、航以外の人はまだ知らないという事か?
「お前以外に誰か知ってる人いる?」
俺は航に聞いてみた。
「いや。あの感じだと夢は気付いてるだろ。元喜はバカだから気付かないだろうけど」
航は首を傾げながら言った。俺はとにかく黙っていてくれとお願いした。
すると航は交換条件をだしてきた。
「この事は黙っといてやる。だから昨日何があってお前がそうなってるか教えろ」
俺の好きな人がばれた時点で、隠しても意味がないと思い俺はその条件を飲み、昨日の事を一部始終話した。
「そういえば歩実、中学の時からあの先輩に気に掛けられてたなぁ」
航が小さく呟く。俺は胸が苦しくなった事、自分が歩実の事を好きでヤキモチを妬いている事を話すと、航は声を出して笑った。
俺は笑うな、と言葉に力を入れて言った。気付けば昼休みも終わろうとしていた。
階段の方から足音がする。夢が航を迎えに来たのだろう。
夢は一定のリズムで階段を上がって俺達のいる踊り場に顔を出した。
「珍しい。二人が向き合ってるなんて」
夢は驚いた顔でこちらを見る。航はスッと立ち上がり、自分の制服に着いたお尻の埃を落としこう言った。
「夢、こいつ歩実の事好きらしいぞ」
「うん。知ってるよ」
俺は開いた口が塞がらなかった。
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