記憶は優しい海だから

 記憶は優しい海だから

 溺れてしまっても悔いはない

 魚の鱗に過去がある

 沖合いに浮かぶ舟は

 忘れてしまったかけらを探している

 もう何十年も


 記憶は優しい海だから

 呑まれることをおそれはしない

 たださざ波の

 淡い感情の震えだけは

 いまでも胸底むなそこに新たな傷をつける

 もう何十年も


 記憶は優しい海だから

 アクアマリンの寂寥だから

 荼毘だびに付されるぼくの眼にも

 ひとしずくの生前が残るだろう

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