他者としての階段

 幼いころは背丈が低いので

 階段を這うように昇り降りした

 一段一段に手をついて昇っていたとき

 階段はひどく近かった

 親しい他者のように現前していた

 いまでは単なる通過点として以上に

 意識に上ることは稀だ

 他者のように存在していた階段は

 書割のような背景に遠のき

 脆弱にしか存在しなくなった

 足を踏み外して転んだり

 持ち運ぶのが困難な荷物があったりするときに

 障害としての他者性を見せることはあるけれど

 そんなよそよそしい一面ではなく

 もっと柔らかな相貌が階段にはあったと

 幼時の記憶がささやいている

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