明日が来てほしくない三人組の会話
――先生、ぼくは思うんです。明日は来ない方がいいなって。
――なるほどね。それは何故だい、優等生くん。
――簡単なことです。明日は今日よりも死が近い。その一点において、未来は常に下降線をたどります。来るべきは明日ではなく、昨日なのです。
――しかし、昨日が繰り返し訪れれば、いずれ私たちは、生まれる前にまで遡ってしまう。それは死と同じことではないだろうか。
――なるほど、一理ありますね。さすが老いているだけのことはあるな。では、こう考えたらどうでしょう。重要なのは、昨日と明日の配分だと。死から遠ざかりつづけ、なおかつ、生誕のボーダーラインは踏み越えない。その黄金なるバランスの振り子。
――完璧なプランだ。きみはどう思う、劣等生くん。
――あらまほしき人生といえるでしょう。
――訊いた私が馬鹿だった。唾棄すべき付和雷同性。もっと自分を持ちたまえ!
――ご指導ご鞭撻、感謝の至りです。
――凡夫が! 口を慎め!
――まあまあ先生、憤慨なさらずに。優等生であるぼくは明日であり、劣等生である彼は昨日なのです。ぼくは知によって死を近づけ、彼は無知によって死を遠ざけるのです。
――なんと、私は命綱を罵倒していたことになるのか……。劣等生くん、愚生を許してくれたまえ。
――絶対に許しません。
――それはともかく優等生くん、どうすれば昨日を呼び寄せられるのだろう。
――なぜ明日は来てしまうのか。それを考えれば明白です。明日とはなにか。それは夜が終わり、朝が始まることです。だからわれわれは、明日をもたらす夜明けから逃げて、夕暮れへと続く夜を遡るのです。
――長い旅が始まりそうだな……。劣等生くん、準備はいいかね。
――もとより覚悟の上です。
――そんなに殴られたいのか、金魚の糞が!
――さあ、先生、劣等生くん、昨日に向かって走り続けましょう!
――異議なし!
――待ってろよ、昨日!
――ぼくたちの戦いはこれからだ!
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