哀しみを防ぐ傘はない

 空から哀しみが降ってきて

 そうしてそれを防ぐ傘はない

 そうなんだ残酷なことに

 それを防ぐ傘はない

 哀しみは雨樋あまどいを伝って流れ落ち

 そうして立ちつくしていた貧者を濡れ鼠にする

 椿の花も桜の花弁も

 哀しみをたっぷりと含んで落下し

 長靴もレインコートも

 そぞろに濡れつくす五体を守らない

 富者だと信じられていた者たちが貧者へと横滑りする

 そうしてそれを防ぐ傘はない

 網代木あじろぎは魚を牢獄ひとやに放り込む

 警邏けいら罪人つみびとを手ひどく撲殺する

 そうしてそれを防ぐ二十一世紀初頭の傘はない

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