記憶するに足る詩

 短詩形への憧れはある

 寸鉄人を刺す研ぎ澄まされた言葉


 いかのぼりきのふの空の有りどころ


 蕪村のその俳句を読んで

 この短い形式が持つ可能性に震駭しんがいした

 つづめにつづめた言葉で

 鮮やかなイメージを閃かせるその速度

 短い詩はいちど暗唱すると

 生涯忘れることはない

 “いかなる詩も、記憶するに足る文、以上のものではない”

 戦後詩人と呼ばれた詩人はそう語っていた

 詩や詩人への自嘲も含まれるようなその声音に惹かれる

 この評言さえも詩なのだと

 その定義に従えば言える

 とにかくも記憶にあたいするものは貴重だ

 言葉だけに限らず

 記憶するに足る人や風景や感情はすべて詩なのだと

 勝手気ままに定義を延長してしまいたい

 記憶を詩で満たしたい

 やがて死がその記憶を打ち砕いたときに

 いくつかの破片が透きとおった詩であることを願いたい

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る