詩を読む歓び

 全詩集とは

 全歌集とは

 なんと贅沢な書物だろう

 ひとりの人間が生涯に集め得た

 言葉のかけらの最上の成果

 魂の震えを刻み込んだ結晶


 ページをめくれば

 詩人の鼓動があまねく波打つ

 失敗した試みは数あれど

 埋め草はどこにも見当たらない

 散文とは違って

 詩には義務への従属がないから

 なりふり構わず言葉を遊ばせ

 全身全霊で失敗する

 失敗した詩に言い訳はきかない

 この世でもっとも恥ずかしい文字列

 しかし恥をおそれて詩は書けない

 恥を忘れても詩は書けない

 魂のこもった恥辱は美しい

 恥を突き破った言葉は美しい


 敬愛する詩人の分厚い全詩集を

 ひもとくときのよろこびは

 春の昼寝の布団のやわ

 連休初日の珈琲の香り

 海辺に浸した足の感触

 月の光の淡い温もり

 詩は言葉の花だから

 そこには薬も毒もある

 詩は魂の玩具おもちゃだから

 そこには遊びの至福がある

 詩人よ遊べ

 舞い狂え

 花を散らして歌い死ね

 詩のあるところ

 言葉は笑う

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