深海のゲームセンター

 ゲームセンターは騒がしい

 騒がしすぎて

 沈黙に似ている

 音楽や話し声が聞こえる場では

 読書に集中しきれないはずが

 不思議なことに

 ゲームセンターの喧騒の只中では

 本が読める


 ここには音があふれすぎていて

 歩きまわっていると

 深海をただよっているような気さえする

 人声も膜をかぶせられて

 魚の尾がひらめいたような声音

 そこで人が為すことも

 役には立たない遊びばかり

 図書館とゲームセンターは

 方向を違えた双子かもしれない

 少なくともどちらの空間も

 居場所のない人間には優しい


 音の消えたゲームセンターは

 なぜあんなにも墓場に似るのだろう

 遊びを目的とした空間はとき

 空爆されたあとのような

 殺伐さつばつとした表情をちらつかせる

 またぞろ音が鳴り出せば

 水はふたたび満ちてゆく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る