小さな声

 テレビの声はなぜ

 こんなにも大きいのだろう


 いつも小声で話す友人が

 不思議そうにつぶやいた

 なるほどたしかに

 彼の話しぶりに比べたら

 いくら音量を絞ってみても

 テレビの声はまるで軍楽

 ささやきですら楽隊を従えている


 ぼくはいまでは

 小さな声にしか興味を持てない

 耳を澄まさずに日々を送ると

 存在の影すら気づかせない

 かそけき地霊のような声

 記憶に限りがあるのなら

 つつましやかなその声たちの

 逃げ場のひとつにでも残しておきたい


 テレビの声はなぜ

 こんなにも大きいのだろう

 小声でしか話せない友人が

 消え入りそうな

 死にかけた猫のような細い声で

 必要もないのに恥じながら

 寂しそうにつぶやいた

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