ぼくを葬る

 ちょうど十二のみぎりの秋に

 ぼくは自分を埋葬まいそうした

 だれも知らない墓所ぼしょを見つけて

 ぼくは自分を埋葬した


 あとは余生を送るだけ

 死を待つ日々は穏やかだった

 ところがなんとも奇妙なことに

 身近なだれかの死は哀しかった

 これは不思議なことだった

 なぜならぼくは埋葬したとき

 感情の芽を摘み取ったから

 痩せた土壌どじょうは実らない

 悲哀の花咲く余地はない

 だから当然わかってた

 この哀感あいかんは 偽物だと


 ふたたび余生はいできた

 死を待つ日々は穏やかだった

 ところがなんとも奇妙なことに

 離れた彼女の眼は恋しかった

 これは不思議なことだった

 なぜならぼくは埋葬したとき

 感情のを吹き消したから

 ただれた白蝋はくろうに火はともらない

 懸想けそうに焦がれる余地はない

 だから当然わかってた

 この恋情れんじょうは 偽物だと


 ふたたび余生は凪いできた

 死を待つ日々は穏やかだった

 ところがなんとも奇妙なことに

 詩を書き始めた日は楽しかった

 これは不思議なことだった

 なぜならぼくは埋葬したとき

 感情の詩を引き裂いたから

 千切れた紙片に詩は残らない

 詩神ししんが微笑む余地はない

 だから当然わかってた

 この慰めは 偽物だと


 ちょうど十二のみぎりの秋に

 秋草あきくさ香る晩秋に

 ぼくは自分を埋葬したのだ

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