ぼくを葬る その他の詩

koumoto

彼を待つ

 死にたい

 とても死にたい

 震えながら

 かすれ声で

 空気の底に焼きつける

 死にたい

 とても死にたい


 死を忘れながら歩く

 死を忘れながら歌う

 死を忘れながら恋をする

 その歩行は

 その歌唱は

 その懸想けそう

 本当に死と無関係か

 歩行を担うその脚は

 歌唱に震わすその声は

 懸想に焼かれるそのこころは

 本当に死と無関係か


 眼前の焚死ふんし

 橋上の頓死とんし

 水底の殉死じゅんし

 頻々と増えまさる

 わたしたちの死装束しにしょうぞく


 産湯に浸かったときに

 とても愛おしい横顔で

 死はまごころをこめて誓ってくれた

 必ずやあなたを迎えに行くと

 穏やかでかぼそい

 ひびわれた声で

 あなたがいかなる危難にあり

 望みのすべてを断ち切られても

 必ずやあなたを救い出すと

 死は婚約の契りを交わしてくれた

 わたしは頬を染めて

 はにかみながら承諾した

 わたしの生涯に起きた

 ただ一度だけの両想い

 生きるよすがになりおおせた温もり


 いまわたしは

 婚前の憂鬱に包まれ

 ひとり

 明け方の光を待っている

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