予言する勧誘員

 人間の滅びが間近いのは

 周知の事実です

 と

 保険の勧誘に来た男が

 玄関先に立ったまま

 うさんくさい笑顔で言った

 世間では周知の事実でも

 ぼくにとっては初耳だった

 あなたの脳髄が滅びるのは勝手ですけど

 それに人類を巻き込まないでください

 と

 腹立たしげに言い返した

 間延びした死相が

 お客さまの顔には見られます

 お客さまはいつか死にますよ

 と

 保険の勧誘に来た男が

 さえぎられた進入路をまさぐるように

 どことなくさそりに似た笑顔で言った

 関係を決めるのは意志ではないけれど

 お客さまになった覚えはなかった

 余計なお世話です

 いつか死ぬのは誰だって知っています

 と

 不安をだまくらかすように言い返した

 もしやお客さま

 ひょっとして

 詩など書かれてはおられませんか

 と

 保険の勧誘に来た男が

 目に一丁字いっちょうじもありませんと主張するような声色で

 買い置きの罠を使うような笑顔で言った

 たしかに詩のようなものを書いてはいたが

 詩の話だけはしたくなかった

 ぼくがなにを書いていようが

 あなたとの関係は絶無ぜつむです

 と

 書くという行為への誤解をまきちらしながら言い返した

 実はわたくしも詩を書いておりまして

 よろしければ

 御一読ごいちどくねがえませんでしょうか

 と

 保険の勧誘に来た男が

 中原中也の詩に出てくる天使のような身振りで

 ペンだこを誇示するような笑顔で言った

 ひとの詩を読むのは大好きだが

 書き手を選ぶ権利はぼくにもあった

 聖霊せいれいの宿る言の葉しか

 読まないことにしておりますので

 と

 たわごとめいた倫理を発表しながら言い返した

 では朗読させていただきます

 人間の滅びが間近いのは

 周知の事実です

 と

 保険の勧誘に来た男が

 玄関先に立ったまま

 持久力のありそうな笑顔で言った

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