第7話 廻り合う運命
格闘家達がいた町から逃げるように僕は、サラマンダー達が住む小さな田舎町にやってきた。
自然が多く、狩りの対象として丁度いい動物も多いので、しばらくこの近くで狩りをさせてもらおうという訳だ。
僕は、間食用にジャーキーを購入し、町を出ようとしていた。
「あの…アンタは、色々な所を回ってると聞いたんだけど……」
サラマンダーの民族衣装である赤い帽子と赤い一張羅を身に付けた女の子が話しかけてきた。
「まぁ、そうだけど。」
「アンタ…怪我で半年経っても動かない腕を治す方法について…知らねぇか?」
僕の知る魔術には、少なくともそんなものは無いし、治したという人物を聞いた事もない。
「残念だけど、僕は何も……」
そう言って、さっさと別れて狩りに出かけた。
村から1時間くらい歩いて、森の中にある池に辿り着いた。小さな池だが、多くの動物が水を飲みに来ている事を確認したので、恐らく今日も何かしらは捕れるだろう。
しばらく待っていると、僕は池の向かいに華奢な胴体を持つ比較的メジャーな竜種…リントヴルムが飛来したのを見つけた。
「今日はツイてるな...」
思わず声を漏らすと、いつもより高めの弾を込めて急所である目にしっかりと狙いを合わせた。
「起術…発火準備…コード Ölrún…発火!」
轟音と共に弾が放たれる。弾が命中するとリントヴルムは鈍い音と共に倒れて、立ち上がろうともがいている。
倒れたリントヴルムに駆け寄ると、首の後ろを銃剣で付いてとどめを刺した。肉や角、そして毒腺と毒牙を切り取って持って帰ることにした。それぞれ食用、工芸品の材料、薬用として価値が高い。
それが終わると、持ってきた花を近くに置き、祈りを捧げて場所を変える為に歩き始めた。
すると、何やら不審な物音がした。僕は木陰に隠れて様子を伺う。耳を澄ますと、数人の男が何やら物を運んでいるようだ。
「そっち、もっと力入れろ。」
「すいません…。」
こんな所で何を運んでいるのか、気になった僕は木陰から彼らを覗く。すると、そこには恐ろしい光景が広がっていた。
森が切り開かれた所で男達は、死体を埋めていたのだ。それも1人2人の亡骸ではない。更に、どれも刺し傷があったり頭が無かったり、明らかに殺されたとしか思えないものだった。
びっくりして、その場から離れようとすると、草と体がこすれて音がしてしまった。
「ん?今なんか音がしなかったか?おいお前、見てこい。」
こっちに向かって一人の男がやってきた。僕はその場にうすくまってやり過ごそうとした。が、どんどん足音がこっちに向かってくる。最早魔術で反撃しようにも詠唱している時間は無い。ついに、男と目が合ってしまった。
「お嬢ちゃん…こんな所で何をしているんだい?」
僕はすぐに逃げようとしたが、草が生い茂る場所ではすぐに立ち上がる事も難しい。ぐずぐずしている間に男が僕の腕を掴んだ。
「僕をどうする気なんだ…!?」
「見られちまったからなぁ…それなりの仕置きが必要だな。でもその前に…」
男は僕の服の上から胸を触ってきた。
「……ッッ!!」
「ハハハハハ!!!最ッ高だなぁ!!!」
さらに男は高笑いしながら僕の服を剥ごうとしてきた。
男の後ろに、大和刀を二本手にした女の子が立っているのが見えた。彼女はさらしを巻いた上から東国風の羽織ものを着ていて、腰には二つの空の鞘ともう二つの剣を提げていた。
「それ以上したら、首を刎ねるわよ。」
「誰かと思えば、また女かよ。舐めやがって!!!」
男は腰に提げた剣を持って私を助けてくれた女の子と向き合った。そして、雄叫びを上げながら切りかかる…が、呆気なく剣を弾かれてしまった。
「その程度で粋がってたのかしら?私は
その声を聞いて、他の男達が剣を持ってやってきた。6,7人はいるように見えた。
「何人来ようと同じ事…はああぁァッ!!!」
男達に駆け寄ると、あっという間に一人、二人と足や手を斬りつけ、動けなくしてしまった。
そして、最後の二人が攻撃しようとしたのを軽々とかわして一人の腿を斬り、もう一人を首への回し蹴りで気絶させると、もう誰も立ち上がろうとはしなかった。
「大丈夫?怪我とかしてない?」
その女の子が僕の方に駆け寄ってきた。
「あ…うん。大丈夫。助けてくれてありがとう。」
その場で息を整えてから立ち上がった。
「やれやれ、僕が出る幕も無かったか。」
「アリン、あんたこそ怪我とかしてない?」
後ろにもう三人が立っていた。一人はさっき僕と話したサラマンダーの少女だ。
「君たちは...?」
「ああ、港湾兵団よ。私は団員のエリーゼ・スカーレット。
このローシャって子が
魔術で男達を拘束しながら、グラマラスな女性が事情を教えてくれた。
「この中には師匠やアタイを襲った男はいないみたいです。」
サラマンダーの少女…改めローシャはどこか不安そうな顔をしている。
「という事は、まだ連中がいるって事か。そこのハンター、ここから先は危険だ。さっさと帰って。」
とはいえ、深く介入する気は無いので、黒服の魔術師の言う通りに帰ろうとした。その時、炸裂音と共に地響きが鳴り響いた。
「よくも俺の部下に手ェ出してくれたたなぁ…オイ!」
炸裂音が止むと、男の声がした。
「お…お前はぁっ!!」
ローシャが明らかに困惑している。
「俺はセルバンテス。
数的には明らかな劣勢だが、男は余裕そうな顔をしている。
「まずはこいつらと遊んで頭冷やしな。」
セルバンテスは20人程の構成員を呼び、何処かに去っていった。
「さすがに数が多いわね…到底逃げられなくなっちゃったけど、大丈夫?」
例のアリンが話しかけてきた。
「大丈夫...普段魔獣や竜と戦ってるんだ。人と戦える自信くらいはある。」
「そう、でも油断はしないでね。」
僕は取り回しの利くボーガンを構えて、襲いかかってくる構成員に備えた。
「カイン、魔術でバックアップをお願い。アリン、一緒に前に行くわよ。」
エリーゼがそう言うと、カインは魔術の詠唱を始めた。アリンとエリーゼは前線に突撃して、交戦を始めた。僕も麻酔矢を機巧弓後ろの方にいた剣士二人を眠らせた。
「みんな!!!後ろ!!!」
ローシャがそう叫んだかと思うと彼女の体がこっちに吹き飛んできた。
「俺が逃げたなんて思っていたのか?大間違いだ。」
セルバンテスが、今度は僕達の後ろから現れた。
「ローシャ、大丈夫!?」
「まぁな…まだ、戦える…!」
ローシャは咳き込んだ時に口から出た血を拭いながら立ち上がった。
「回復した方が良いか?」
「カイン、エリーゼさん達をサポートしてやってくれ。こいつは必ずアタイが倒す。」
カインの心配を跳ね返すように、ローシャはニコッと笑ってみせた。
「僕も加勢するよ。怪我をした君を一人で戦わせる訳にはいかない。」
僕達を嘲笑うかのようなセルバンテスの顔を、ローシャは睨み付けて大きな弓に矢をつがえた。
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