第6話 開闢の黄昏
翌日。私は兵団の牢の中で目を覚ました。
「おはよう、アリン。」
エリーゼは私の起床を待っていたらしい。
「昨日話した通り、事情聴取をさせてもらうわね。」
私はエリーゼに連れられて灰色の細い道を通り、小さな部屋に入った。
向かい合って席に着くと、エリーゼは早速口を開いた。
「早速だけど…帝都で起きた5件の殺人。これに身に覚えはないかしら?」
「それは……私がやりました。」
最早、隠すだけ無駄だろう。
「そう…やっぱりね。なんで、やったのか教えてちょうだい。」
「えっと…私は革命軍に村を襲われた時に攫われて…お兄ちゃんを取り戻す条件として5人を殺せって脅されて……それで……」
思い出しながら、私は涙を流していた。
「勿論、あんたを捕縛してそんな事をさせた
だけど、5人も人を殺めたあんたを只で開放してやれるほど優しくはないのよ、帝国は...」
「そう...ですよね。」
許されない事をしてしまったというのは重々承知している。
「私としては、事情を知るあんたと
でもまぁ...今のままじゃ無理。だから私としての最善を尽くしてみる。」
私はエリーゼの話に耳を傾ける事にした。
「私は帝都兵団から異動するから、あんたも一緒に来なさい。場所は港湾都市ポートフレイの兵団よ。流石に、あんたを協力者にして帝都で活動は出来っこないからねぇ。
いい条件にも聞こえる。が、今までの事もあって私はそう簡単に人を信用できなくなっていた。
「それで、私からも一つ質問があります。お兄ちゃ...いいえ、兄の
「残念だけど...少なくとも、あの小屋からは見つからなかったわ。最悪の場合も覚悟しておいて。」
お兄ちゃんにまた会えるという保障は無い。でも、お兄ちゃんともう一度会いたいなら、彼女に付いていく他に道は無いだろう。
「分かりました。あなたの言う通りにします。」
「待って。話はまだ終わってないわ。」
エリーゼは一度席を立ち、一枚の紙を持って戻ってきた。
「最後に...昨晩の身体検査で分かったんだけど、あんたはネフィリムだったのね。」
私は耳を疑った。
「そんな...本当なんですか?」
「本当よ。あんた程の歳なら、感情が高ぶった時に体中が痛くなったりしたり、どことなく体調が優れないって事があるはずよ。」
私は、ディアスと戦った時の事を思い出した。
「はい...間違いありません。」
恐らく彼女の話は本当なのだろう。ネフィリムはかつて帝国に侵攻した謎の種族、グレゴリと
今、私は16歳なのでいつ死んでもおかしくない。私は怖くなって肩で息をした。心臓の鼓動も破裂しそうな程に高鳴っている。
「体中のマターが暴走してしまっているのよ。ネフィリムは大量のマターのお陰で魔剣も使えるし、ありとあらゆる属性を駆使出来る。
だけど、その力を使えば自分をどんどん消耗させてしまう。
覚悟と言われると、私は怖気づいてしまった。
「少しの間一人にしてくれませんか。考える時間を下さい。」
私は、突然未来が奪われてしまったように感じた。恐らく父さんが私がネフィリムである事を言わなかった訳は、この喪失感を知らずに死んだ方が私にとって幸せだと思ったからだろうか?
いや、それは今となっては分からない。けれど、父さんが私の事を悪意を持って欺くとも思えない。なら、今は亡きお父さんを喜ばせる為に自分に出来る事は…残された時間で彼が育て上げたお兄ちゃんと再会する…
もしくは…そんな事あって欲しくないけれど…それが叶わなくても、彼の痕跡を少しでも見つける事なのではないか。私は拘束具を鳴らしてエリーゼを呼んだ。
「どうする?辞退しようが、受け入れようが私は咎めない。だから、あんたの結論を話してくれる?」
私は力強く答えた。
「良いでしょう。後先が長くないというのなら、私はせめて出来ることをしなければなりません。」
エリーゼは部屋の外から4本の剣を持ってやって来た。2本は私の妖刀・黒百合だが、もう2本は見た事もない剣だった。
「出発前にあんたに渡したい物があってね。魔剣ダーインスレイヴとティルフィングよ。この2本の保持者になれば、あんたの膨大なマターを破壊の性質を持つ呪いで打ち消せる。
ただ、この剣を抜いている間は呪いの効果が打ち消されるわ。なるべくなら使わないで済ませるようにしなさい。」
呪いで力を打ち消すとは、少し驚いた。
「でも残念だけど、あくまで少しの間は普通に戦えるようになるだけで、延命はせいぜい2年が限界だと思うわ。マターの暴走の度合いはどんどん大きくなっていくから…それだけは覚えておきなさい。」
いずれにしても、私に時間が無い事には変わりがないようだ。
「……分かりました。」
「さて、夕方には出発するわ。それまでは牢で待っててちょうだい。」
牢の中で私は色々な事を考えてみた。死んだらどうなるのか…魂になってもいずれは消えてしまう…天国なんてあるかしら…もし無かったらどうなるんだろう。永遠に何も感じる事は無く、考える事は無い……考えていると、どんどん怖くなってしまった。パニックになっている私に、時間になったのかやってきたエリーゼが声をかけてきた。
「アリン?何かあったの?」
「い、いいえ……」
エリーゼにその事を言えば良かったのに、私は何事も無いフリをした。私はエリーゼに連れられて、手枷を付けられたまま兵団本部の外に出た。
久々に見た夕日が綺麗だった。ふと前に目をやると、馬車が止まっている。
「さ、行くわよ。こうするのに私、結構頑張ったんだから感謝しなさいよ。」
エリーゼは明るく話しかけてきた。馬車の中に入ると、エリーゼは手枷を外してくれた。
「これからは、私の部下として頑張ってもらうからね。」
「良いんですか?そんな得体の知れない女を連れてきても。」
浅黒い肌をした小柄な青年がエリーゼに口を挟んだ。
「私が決めた事よ。それに、彼女の事情を聞くにそうそう裏切る風には見えないし。あんたもこの子に自己紹介しときなさい。しばらくは私達と一緒に戦う事になるからね。」
「カイン・ヴァルヴェルデだ。種族はスプリガンで、戦闘では
さっきの事もあって、正直あまり良い印象は持てない。
「
という自己紹介を済ませた後は1度も彼の方は見なかった。とはいえ、エリーゼ以外の仲間がいるというのは心強いとは内心思った。エリーゼの部下というのなら、悪い事は起こらないだろう。
私達を乗せた馬車は、三日くらいで港町に到着した。早速仕事に取り掛からなくてはいけないようだ。兵団の本部で休む間もなく、私たちは武器を持って町を出発した。
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