第2話 砂海の宴〜後曲

「来たぞ!そろそろ射程圏内だ!」


 兵団の筆頭魔術師の掛け声と同時に魔法使いは詠唱を初め、アーチャー達は爆弾矢をつがえた。


「起術…星羅を束ねし理に命じよう。汝が力を以て高貴なる光と裁きの灼熱をもたらすがいい!メルトノヴァ!!」


 まずは星魔法をお見舞いする。魔弾は数に限りがあるので、確実にダメージを与えたい時に使いたい。

 僕の魔法を目の近く受けた後、光に弱いヨルムンガンドは甲高い咆哮を上げた。


「やるじゃん!」


 ミリアの声に僕の顔は思わずほころんだ。前を見ると、ヨルムンガンドは首を高く持ち上げている。そして、口から5,6個の岩を吐き出した。


「はああああっ!!!」


 ミリアは高く飛び上がり、飛んでくる岩を蹴りで跳ね返す。木のステージの5mほど前に落ちた岩を見て狩人達は歓声を上げた。ミリアは長いブロンドの髪をかきあげて得意気だ。



 岩を吐き出してしばらくすると、ヨルムンガンドは巨大な咆哮を上げた。すると、砂の中から5頭の蛇が現れた。

ヨルムンガンドの幼体だ。これを倒す為に、近接職の狩人が必要になってくる。


「さて、今のはほんの序の口よ!本領発揮といこうかしら!!」


 ミリアはそう言うと、金髪をなびかせて幼体に飛びかかった。他の剣士達も、賞金がかかっているこの蛇に果敢に立ち向かっていく。


 成体のヨルムンガンドも、隙を狙って進み初めた。そこを、他の狩人が爆弾矢の一斉射撃を初める。大蛇は熱と爆風を受けて大きく怯んだ。


「起術…発火準備…コードSeyfried…照準…発火!」


 ここぞとばかりに貫通力の高い魔弾・ザイフリートを放ち、ダメージを与えにいく。弾丸は狙い通り頭部に命中した。

 ヨルムンガンドは悲鳴にも聞こえる声を上げて頭を左右に振った。更に、魔術師達が詠唱を終えてありったけの大魔法を放つ。ヨルムンガンドはついにバランスを崩して倒れた。



 スコープから目を外して周囲を見ると、どうやら僕達が成体にダメージを与えている間に幼体は全て倒されたようだ。

 大蛇が倒れたのを見たミリア達は、すぐさま駆けつけて攻撃を初めた。ミリアは一番ダメージを与えられる首に飛び乗った。

 ヨルムンガンドもただではやられない。総攻撃を受けた大蛇は、最後の力を振り絞り前進しようと暴れ始めた。


「あっ!!」


 さっきまで大蛇の首に乗って攻撃していたミリアの体が宙に浮いている。

 ミリアはすぐさま姿勢を整えて、カットラスを大蛇の鼻先に突き刺した。そして、その鼻先に刺さったカットラスを軸に一回転して大蛇の頭上に乗り、体の上を移動して地面に降りた。


「はぁ……はぁ……」


 こんな光景を見せられた僕は、腰を抜かしてしゃがみこんでしまった。

 しばらくして力を使いきったヨルムンガンドは頭を持ち上げた後に低く唸り、地響きと砂埃を立てて倒れる。恐らく絶命したのだろう。 ミリアは嬉しそうな顔をして僕の方に走ってきた。


「やっと倒したぁ…!さ、打ち上げに…」


 言い終える前に、僕はミリアの右頬を強めに叩いた。


「バカ…!君の体が宙に吹き飛ばされた時は……どうなる事かと思ったよ……」


 そして、ミリアを思いっきり強く抱きしめた。


「ごめん、ハンナ…心配させちゃって…」

「全く…危なっかしくて見ていられない…」


 ミリアは僕なんかよりもずっと強くて、そう簡単に居なくなったりしないなんて事は僕には分かっていた。でも僕は、過剰にミリアが消える事を恐れてしまうのだから仕方ない…


 ミリアの温もりで落ち着きを取り戻した僕は、彼女を抱きしめた手をほどいて肩に置き、声をかけた。


「なんかごめんね、ミリア。気を取り直して打ち上げ…行こっか。」


 ミリアは期待通り満面の笑顔でこれに応じてくれた。

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