第22話 3・5 真実
僕はその場に跪いた。
心の痛みが、膝を折らせる。
僕は彼女を何度殺した。どれだけ、死の苦しみを与えれば気が済む。
エリオットは地上を見下ろしながら訊く。
「あの自動人形は、死んだのか?」
「……ああ。そしてまた生き返る。まるで、呪いみたいに」
エリオットは僕の答えを聞くと、訳が分からないように唇を尖らせる。
「どういう関係なんだ、お前ら」
「説明するよ。でも、それは、みんなが集まってからだ」
モニターを見る。
エリオットは僕の目論見を知ったように、僕の仲間の姿を映した。
外はもう暗い。
ツバキは暗所でじっと待機している。
シオとアクラムは、この塔へ向かっているようだ。
その行く手には、自動人形に切り伏せられたゾンビが地面に転がっている。
僕は立ち上がろうとするが、体の重さに、負けそうになる。
するとエリオットが手を差し伸べてくれた。
「お前に助けられたのは、事実だから」
「……」
「何だよ? やっぱり俺の事、嫌いなのか?」
「そうじゃないよ。ただ……。僕のやっているのは、英雄の真似事だから」
「真似?」
「本当の僕は、そんな、立派な人間じゃない」
彼の手助けを借りて立ち上がると、僕は階段を降り始めた。
フラフラする僕の手を、エリオットが掴み取る。
「どっちなんだよ、お前、頼りになるのか、ならないのか」
「ごめん」
小さな手に引かれて、僕は地上を目指し始めた。
「俺を、どうする」
「ん?」
「もう、使える死体もいない。ほとんどが、あの自動人形に潰されたんだ。俺は無力だから」
「そう言う事は、言わなくていいんだよ」
「え」
「ウソでも良いから、戦える力があるって見せかけた方がいい」
エリオットは、顔を赤くすると、すぐに前を向き直る。
「悪かったな。子供で」
「いや、大人だよ。僕よりもずっと。だって、僕は、君みたいに、こうやって誰かを助けようって気持ちすら、持てなかった」
「は? だって、お前、誰かを助ける為に戦ってるんだろ?」
「今はね。でも、前は違った」
もう一度振り返った彼は、僕の目を見て、面倒臭そうに息を吐いた。
「そういうの良いから、これからどうするのか教えろ」
「これから、って?」
「お前、この塔を目指してたんだろ? ここになら、殺し合いから逃げる方法があるって。それ、どこにあるんだよ」
「……どこだろ」
「……知らないのか?」
「ごめん。あれ、消去法だったんだ」
「消去法?」
「他は全部調べたんだよ。この島の全てをくまなくね。だけど、塔にだけは手が出せなかった。戦いがずっと続いていたから、何かを調べるなんて無理だから」
ボンヤリと僕を見上げるエリオットの手を離して、僕は地上に立つ。
「だから、手がかりがあるとしたら、ここにしか無い」
ゾンビ化し、殺された能力者達の死体が転がっている。
その風景を見るのは、僕とエリオット。
そして、塔に辿り着いたシオとアクラムだ。
シオは僕らの話を聞いていたのか、険しい顔で迫ってくる。
「全部調べたって、どういう意味?」
「そのままだよ。僕らは手分けして、この島を調べ上げた」
「僕らって……」
「僕と、自動人形と、仲間達。殺し合うはずだった者同士が手を取り合って、逃げる為の可能性を探った」
「無理に決まってる。あなたにも、自動人形にも、そんな時間は無かった」
「そう。『今回』の殺し合いでは、そんな真似をするのは無理だ」
僕が言うと、シオは、僕の言葉の単語、一つ一つに震えた。
「ちょっと、『今回』って……」
僕は大きく息を吸った。
「ああ。僕が戦い方や相手の能力を知っているのは、これが二度目の戦いだからだ」
「……」
「僕と自動人形にとっては、これは再試合なんだよ。だからこそ、僕は記憶と能力を封印され、彼女は自我を奪われた。つまりハンデだ。他の参加者との差が付かない為のね」
シオは唇を噛んだ。
「そうだよ。この殺し合いは何度も繰り返されている。百人を集め、一人が生き残る。だけど、ゲームは終わらない。それが永遠に続けられているんだ」
「……矛盾している」
シオは、荒い息づかいをなんとか制御して、冷静に告げる。
「一人が生き残るというルールで、どうして二人が、今ここに存在しているの?」
「……無効試合。って、言うべきだろうね」
僕は、罪を告白するように言った。
「一つ前の殺し合いで、最後に生き残ったのは、僕と自動人形」
僕は、失われた心臓に胸を当てる。
「彼女を殺したのは僕だ。だけど、彼女を殺したのと同時に、僕は、自分の心臓を貫いて、自殺した」
その言葉に、全員が押し黙る。
時が止まったような中、シオが、一条の涙を流した。
「どうして」
僕に一歩近づこうとするが、彼女の足音は、破裂音にかき消された。
潰れたはずのエレベーターのカゴが、内側から衝撃を受けている。
扉が、巨大なこぶしで殴りつけられるように盛り上がると、やがて破壊された。
内部から出て来たのは、全ての封印が解かれた自動人形だ。
中に詰められた死肉から、内臓を探し当てたらしい。
彼女を覆っていた鎖は、全て消えていた。
その目を見て、僕は確信する。
それは間違いなく、僕が、一つ前の戦いで殺した英雄だ。
「サトリ」
僕は彼女の名を呼び、近づいていく。
サトリは、ドレスの胸元に手を突っ込む。
体内に指を突き入れ、ナイフを取り出した。
それこそ、一つの前の戦いで、僕が彼女に突き刺したものだ。
サトリの選択を待つように、僕は立ち止まる。
「ごめん。僕は、君の言葉を信じ切れなかった」
彼女は表情を変えず、僕の胸にナイフを突き刺した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます