第134話 水樹の告白②
気が付けば男が倒れている。
これは……俺がやったのか。
沙月の腕が払い除けられた後の記憶が無い。
っ! 沙月は? 沙月は無事なのか?
視線を彷徨わせると、地面にへたり込んで泣きじゃくっている沙月の姿があった。
沙月の傍に行き声をかける。
「沙月! 大丈夫か?」
言いながら沙月の肩に触れようとすると
「触らないで!」
沙月が俺を睨んでいる。
どうして? なんで俺を睨むんだ……。
「沙月……」
「どうして……どうしてこんなヒドイ事出来るの!」
「俺は沙月を守らなくちゃいけないんだ」
「だからって……何もここまでしなくてもいいでしょ!」
「俺は沙月の兄代わりで父親代わりなんだ。だから沙月を傷つける奴は許せない」
「そんなの……そんなのは小さい頃の約束じゃない! 私はもう子供じゃない!」
「なんだと―――」
沙月の言葉でまたもや頭に血が上っていく。
沙月に詰め寄り手を伸ばそうとした時
「おい! お前ら何やってるんだ!」
偶然通り掛かったか、俺達の言い争いを聞いた誰かが呼んだのか。
数人の教師が怒鳴りながらこちらに走って来る。
教師は倒れている男を見ると
「すぐに保健医を呼んできます」
と一人の教師が走って行く。
すると残った教師は俺を囲み
「お前、自分が何をしたか分かってるのか!」
「取りあえず進路指導室まで来い」
と言って無理やり腕を掴み連行しようとする。
だが俺は何も悪くない。
「宮田君は私に告白しただけなんです……それなのに
「っ! 沙月、何言ってるんだよ」
「宮田君は何もしてません! 水樹先輩が一方的に殴りました!」
「さつき……」
沙月の言葉にショックを受けていると
「やっぱりお前が悪いんじゃないか! 大人しくこっちに来い!」
その後、進路指導室に連れて行かれた俺は自分でも何を話したのか覚えていない。
沙月の拒絶する様な目が脳裏に焼き付いている。
停学中に二人の来客があった。
一人は担任で高校への推薦が取り消された事だけを伝えて帰った。
もう一人はユウ姉だった。
ユウ姉は「もうこれ以上私達に構わないで欲しい」という事だった。
俺は納得がいかず理由を聞くと「沙月が今どんな状態か自分で確かめなさい」と言われた。
沙月の状態? もしかして虐められてるのか?
と色んな事が頭をよぎったが、ユウ姉曰く虐めではなく自分から行動しているらしい。
そして最後に「これからは私が沙月の面倒をみるから……バイバイ」と言って帰ってしまった。
停学が明けて沙月の様子を見に行くと、そこには元気で無邪気な沙月は居なかった。
休み時間の間ずっと席から動かず周りとも距離をとっていた。
どうしてこんな事になってしまったのか分からず、沙月のクラスメイトを引き止めて話を聞いた。
すると「私と関わると宮田君みたいになっちゃうから……」と言って皆から距離を置き出したらしい。
その話を聞いて愕然とした。
俺の所為で沙月がああなってしまった。
これじゃユウ姉から関わるなと言われても仕方ない。
沙月の為と思って行動した事が逆に沙月を苦しめている。
その日から俺は桐谷家に関わる事が無くなった。
そして高校に入った俺が目にしたのは佐藤友也という人物だった。
いつも一人で居て周りと距離を取っている。
そんな姿が沙月とダブって見えた。
佐藤はとうとう一年間一人で過ごした。
その姿を見て、沙月は今どうしてるんだろうという気持ちで一杯になった。
佐藤の様にずっと一人で過ごしているのだろうかとつい考えてしまう。
春休みが終わり二年生になった。
教室に行きまた同じクラスになった中居と駄弁っていると及川が何やら騒がしい。
そちらに耳を傾けてみると佐藤の事で驚いているようだ。
何をそんなに驚いてるんだと思い視線を向けると、一年の時では考えられない位変わっていた。
一体春休みに何があったのだろうか?
あんなに暗く人と接して来なかった奴がこんなに変わるなんて。
その日の夜、スマホに着信があった。
画面を確認して固まった。
今まで抱えていた罪悪感が膨れ上がる。
いつまでも鳴り続ける着信に意を決して出る。
「もしもし……」
「も~、出るの遅いよ~」
先ずはあの時の事を謝らないと
「……沙月、今更だけどあの時はすまなかった……」
「別にいいって~。っていうかそのお蔭で今は楽しいかな~」
「そうか、楽しいのか……ユウ姉とは仲良くやってるか?」
「別に……それよりさ! イケメン紹介してよ~。孝弘なら知り合いに一杯いるでしょ?」
「……お前変わったな」
「誰の所為でこうなったのかな~」
「っ!」
「孝弘に断る権利ないよね? だから紹介してよ~」
「今のお前に紹介するような奴は居ない。せいぜい後悔しない様にな」
と半ば無理やり通話を切った。
少し人見知りで純情だったあの頃の沙月とはまるで別人のようだ。
ユウ姉とも上手く行ってない様子だった。
だけど今の俺には口を挟む権利なんか無い。
―――俺は現実から目を逸らした。
そして夏休みに入ってキャンプから帰って来た時、またしても沙月から連絡があった。
「なんだよ」
「もう冷たいな~、それよりさ今度合コンしない?」
「まだそんな事言ってるのか」
「別にいいでしょ! 付き合ったりしないから安心して」
ならどうして合コンなんかするんだ? と疑問に思っていると
「男を惚れさせるのが快感なんだよね~。男ってホントにチョロイ。孝弘の言ってたとうり皆下心丸出しで笑えるよ」
此処まで変わってしまうなんて……。
もうこのまま逃げ続ける訳にはいかない!
どうすれば昔の沙月に戻るのだろう。
と考えた時、一人の男が頭をよぎった。
アイツならきっと……。
「沙月、合コンに参加してもいいぜ」
「ホントに? やった~」
「それじゃあ明日ターミナル駅に集合でいいか?」
「オッケー♪」
沙月との通話を切り、俺は佐藤友也に連絡を入れた。
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