第135話 親友

 水樹の語りが終わり部屋に静寂が訪れる。

 その静寂を水樹自ら破る。


「と、まぁ昔の俺は沙月に対して過保護すぎる程過保護だった。その所為で沙月とユウ姉を苦しめた」


 そう言って水樹は二人に向き合い


「本当に……ごめんなさい」


 と言って深々と頭を下げた。

 それを見た沙月と友華さんは


「ハイハイ分かったから。一体何回謝るのよ」

「そんなに謝らないで? 昔みたいに仲良くしよ」


 沙月と友華さんが笑いながら言うと、水樹は


「ありがとう」


 と言ってもう一度頭を下げた。

 そして今度は俺に向き直り


「話を聞いて分かっただろ。あんな噂が流れたのも全部俺の所為なんだ」


 水樹は一拍置いて


「だから沙月の事を攻めないでほしい。もし今後何かあっても全て俺の所為だ」


 俺の目を真っすぐ見て言う。

 俺はそれに対し


「沙月は2度とそんな事しない。水樹だってわかってるだろ?」


 少し強めに言う。

 すると沙月も


「そうだそうだー! まだ私の事信用してないの!」


 と水樹に文句を言う。

 だが、その表情は責め立てる様な物ではなく、笑っていた。

 俺と沙月の言葉を受け、水樹はもう一度頭を下げて


「悪い……」


 と謝るが、沙月は謝罪に対して


「もー、さっきから謝ってばっかりなんだから! だけど……ありがとね」


 色々あったけど、沙月自身、自分の為にしてくれている事は分かっていたのだろう。

 だけど、思春期真っ只中だった沙月は素直になれなかったのかもしれない。

 そして今日、水樹の言葉と謝罪を聞いてやっと素直になれたのかもしれない。

 だからこその感謝の言葉なのだろう。


 沙月が感謝の言葉を口にした。

 俺も水樹には感謝をしている。


「俺かもお礼を言うよ。沙月と出会わせてくれてありがとう」

「っ!……」


 沙月と俺から感謝の言葉を受けた水樹は俯いて小刻みに震えている。

 すると、ずっと話を聞いていた友華さんが動いた。


「タカ君……ティッシュいる?」


 と言ってティッシュを渡す。

 すると水樹はティッシュを手に取り思いっきり鼻をかんだ後


「あー、スッキリしたら腹減った。友也、飯食いに行こうぜ」


 若干赤くなっている目で明るく言ってっ来る。

 確かに結構な時間が経っていたので腹が減った。

 「何処に食べに行く?」と話していると友華さんが


「ご飯だったら家で食べってって。久しぶりに一緒にたべよ」


 と提案してきた。

 水樹は少し逡巡した後


「じゃあお言葉に甘えて御馳走になるか」


 と言って俺の目を見る。

 俺も文句等無いので御馳走になる事にした。


「ごちそうになります」


 と告げると、沙月が凄い勢いで立ち上がり


「なら私も手伝う!」


 そう言って友華さんの元へ駆け寄るが


「大丈夫? 友也さんの前だからって無理しなくてもいいのよ」


 友華さんの一言で普段料理してない事がバレた。

 沙月はわたわたと焦りながらも


「べ、別に無理なんかしてないし! いいから早く行こうよ」


 と言って二人で階下に降りて行った。


 二人が居なくなった事で水樹と二人きりになる。

 ずっと2つの疑問に思っていた事を水樹に聞いてみる。


「ところで水樹に聞きたい事があるんだけど」

「ん? なんだ?」

「どうして俺を合コンに誘ったんだ?」

「友也は他の男と違うからな」

「どういう事だ」

「お前なら沙月の誘惑になびかないと思ったし、沙月が変わるきっかけになるとおもったんだ」


 そういう事だったのか。

 最初は只の人数合わせかと思っていたので驚く。


 確かに当時はそれどころじゃなかったしな。

 でも水樹にそこまで信頼されていたとは……。


 一つ目の疑問が解消されたので、2つ目の疑問を聞く事にする。


「もう一つ聞いていいか?」

「おう、何でも聞いてくれ」

「どうして今日俺を連れて来たんだ?」


 と聞くと、水樹は照れたように頬を指でポリポリと掻くと


「お前と本当の意味で親友になりたかったから俺の過去を聞いて欲しかったんだ」


 正直、驚いた。

 こう言っては何だが、水樹は親友というのを作らないと思っていた。


 中居とは1年の時からの付き合いで仲は良いが、一定の距離を保っている様に見えた。

 だから水樹は相手の懐の奥には潜り込まないし、潜り込ませない様にしていると思った。


 だけど、そんな水樹から親友になりたいと言われた。

 だからこビックリした。だがビックリしただけだ。


 俺には俺の想いがある。


「確かに水樹の過保護っぷりには驚いたけど、俺の知ってる水樹は今のお前だけだ。」

「友也……」

「お前がそんな事言う前から俺は親友だと思ってる」


 水樹の過保護もあったかもしれないが、今まで水樹には沢山助けられた。

 

 トークが上手くて場の空気が読めて、皆を纏めて。

 最初はそんな水樹に憧れを抱いていた。


 だけど、いつの間にか憧れでは無く、対等に接する事が出来た。

 そして俺の中の憧れは『親友』に変わっていった。


 それを伝えると水樹は目を見開いて驚き、照れたように


「……ありがとな」


 と一言言って頬を掻く。

 

 何故だか変な空気になってしまいお互い言葉が出て来ない。

 どうした物かと思っていると


「ご飯出来たわよー」


 と階下から友華さんの声が聞こえた。


「うし! 飯食おうぜ」


 笑顔で肩を組んでくる。

 俺も負けない位の笑顔で返事をする。


「ああ、もう腹減って死にそうだ」



 4人で食卓囲む。

 友華さんの料理はお粥しか食べた事しかないが、どれも美味しそうだ。

 だが、一つだけ歪に盛り付けられたサラダがあった。


「もしかして、このサラダは沙月が作ったのか?」

「ど、どうでしょうね~」


 と言いながら席に着く。

 全然誤魔化せていない。


 このサラダは絶対に沙月が作った物だろう。

 歪なサラダ。


 だけど、このサラダを見るとなんだか幸せを感じた。

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