第31話 デート前夜―新島楓の場合―
少し強引だったかなと反省している。
でも、こうでもしないと友也君は私の気持ちに気づかないだろう。
いつからだろう、私が友也君を意識し始めたのは。
あれは確か一年生の時だった。
* * * * * * * * *
私には今、気になる奴がいる。
といっても、恋愛話とかそういう訳ではない。
そいつはいつも一人でいる。
クラスが違うので移動教室の時にそいつの居るクラスを覗くといつも一人で居て、寝ているかゲームをしている。
合同体育の時は一緒に授業を受けるのだが、やっぱり一人。
男子がサッカー、女子はそれの見学の時見てみたら誰からもパスされていなかった。
というかボールに触ってたかな?
こんな感じでいつも一人で居る。
私にはそれが信じられなかった。
私は皆から認めて貰える様、評価される様色々な努力をしている。
今では学校一のアイドルとまで言われる様になった。
だから何の努力もしないアイツがキライだ。
夏休みを挟み、何か変わったかな? と見てみるとやっぱり一人だった。
ここで私はある事に気づいた。
もしかして虐められてるんじゃ?
そう思った私は、そいつと同じクラスの仲のいい子にそれとなく聞いてみた。
「ねえ、佳奈子」
「なに~?」
「あの、いつも一人でいる男子いるじゃない?」
「ん? ああ、佐藤の事か」
「そう、佐藤君」
「佐藤がどうかしたの?」
「いつも一人で居るから、もしかして虐められてるのかなって」
「ないない、中居がそういうの嫌いだから中居に目を付けられる様な事する奴いないと思うよ」
「そうなんだ、虐められてる訳じゃないんだ」
「うん、でも何故かいつも一人なんだよね~」
「そっか、ありがとう佳奈子。またクレープ屋行こうね」
「うん!またね~」
佳奈子は嘘を吐く様な子じゃないので虐められてる事はなさそうだ。
なら何でいつも一人でいるのだろう?
私は更に混乱した。
文化祭の時期がやってきた。
クラス皆で協力して出し物を作る。これなら流石に一人にならないだろう。
そう考え、佳奈子に会いに行くついでにどうしているか観察した。
しかし、やっぱり一人で作業をしていた。
何をしているのだろう? 立て看板らしき物を作っている。
皆で分担してやった方が格段に楽なのに。
それからほぼ毎日顔を出して観察していた。
ようやく看板が出来たらしい。一人で作った割には上手い。
やる事が無くなったのか辺りを見回している。
そこで一瞬目が合ったが直ぐに其れされる。
私と目が合ったのに何事も無く作業を探している。
私のプライドがそれを許せなかった。
あんな奴もう知るもんか。一生一人で居ればいい。
そんな中とある出来事があった。
自分のクラスの手伝いが終わり返ろうとアイツのクラスの前を通った。
クラスに人気が無かったので佳奈子達も準備が終わり返ったのだろう。
そう思いそのまま帰ろうとした時、教室から何かを叩く音がした。
覗いてみると、アイツが一人で何かをしている。
手作りであろう木の椅子で何かをやっている。
ここからじゃ何をしているのか分からないので教室に入った。
私が教室に入っても気づいていないようなので声を掛ける。
「一人で何してるの?」
ビクッ! と体を跳ねさせ恐る恐るこちらを見る。
しかしまた直ぐに目を逸らされる。
「い、椅子を……」
彼は恐る恐るといった感じで答える。
「椅子がどうかしたの?」
「座る時少しガタつくから、直してた」
「ふ~ん、クラスの皆は?」
「か、帰った」
「やれって言われたの?」
「い、いや。お、俺が、気になったから、直してるだけ」
「これ全部?」
「う、うん」
「手伝おっか?」
「だ、大丈夫。これで、終わりだから」
「え? 他の全部一人でやったの?」
「う、うん」
「手伝って貰えばいいのに」
「お、俺が個人的に気になっただけだから……」
「そっか、頑張ってね」
「う、うん」
こうして私達の初会話は終わった。
自分の所為でクラスの子達を巻き込めないって感じてるのかな。
責任感が強いのか、ただのお人好しなのか。
あれだけの数を一人で直すなんて私じゃ思いつかないな。
それにアイツの事だからこの事は誰にも言わないんだろうな。
何それ。自分が直したんだ!って言えば皆から感謝されるのに。
でもアイツはそれを望んでる訳じゃないんだよね。
なんだ、カッコイイじゃん。
その事を切っ掛けに、私のアイツを見る目が変わった。
相変わらず一人でいるけど、それを見ても不快に思わなかった。
アイツは……、ううん。佐藤君は一人でも平気なんだ。
一人で何でも出来る。私とは正反対。
でも嫌いじゃなくなった。
私は知ってるから。佐藤君は私では到底及ばない強い心を持ってるって。
私もいつか、佐藤君みたいに強くなれるだろうか。
年が明け春休みを経て新学期。
クラス割表を見て驚いた。
佐藤君と一緒のクラスになった。
教室で友達と話しながら佐藤君が来るのを待つ。
あれ? これじゃ私恋する乙女みたいじゃん!
違う違う! 私は単に今年も一人なのか気になるだけ。
しかし中々来ない。
しばらくして佳奈子の隣に男子がやって来た。
結構イケメンな部類だ。でもあんな奴いたかなぁ?
と考えていると、佳奈子がビックリしている。
少し聞き耳を立ててみる。
「本当に佐藤なの? あの地味でいつも一人だった」
「そうだけど。あ! イメチェンしたから分かんなかった?」
え? あれが佐藤君? いつも一人で居た佐藤君なの?
私は頭の処理が上手くいかなくなっていた。
私の知ってる佐藤君は自分から話掛けるタイプじゃないし、直ぐ目を逸らされる。
そんな佐藤君が自分から佳奈子に話しかけて、目も逸らさないでいる。
一体春休みの間に何があったのだろう。
体育館に行く途中、佳奈子にそれとなく聞いてみた。
どうやら心機一転イメチェンをしたらしい。
しかもその理由が彼女が欲しいから? 何でこのタイミングで?
しかもしかも! あんなに格好良くなってるし!
何より許せないのが、私の事を覚えてないなんて!
教室に戻り話しかけてみた。相手が文化祭の事を覚えてないならこっちだってやってやる。
「君が佐藤君? 彼女が欲しくてイメチェンしたんだって?」
私だけドキドキするなんて許せない。
絶対私に振り向かせてやるんだから!
* * * * * * * *
まさかここまで好きになるなんてね。
私の考えを変えてくれた友也君……。
明日は私にとってのターニングポイントかもしれない。
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