第30話 初デート前夜

 帰宅し、夕飯や風呂等を済ませて落ち着こうとしたが落ち着けない。

 柚希との会議はいつも両親が寝た後の11時からやっているが、時刻はまだ8時。

 新島が俺を誘った理由、デートと呼ぶべきなのかどうか等色々頭を悩ませる疑問はあるが、一番の問題は


『明日着ていく服が無い』


 だった。

 マネキン買いした服は今日着てしまったので、さすがの俺でも2日連続で同じ服を着ていくのはマズイとわかる。

 なので一刻も早く柚希のアドバイスが欲しかった。

 どうするか悩んでいたらスマホから通知音が鳴った。

 画面を見ると柚希からだった。


「今日の成果を楽しみにしてるよ~」


 という内容だったが、この手があったか! 

 俺は単刀直入に


「明日、新島から買い物に誘われたんだが着ていく服が無い」


 とメッセージを打ち込んだ。

 直ぐに既読が付いたので返信をジッと待つ。

 中々返信が来ないのでもう一度メッセージを送ろうか迷っていると


 コンコンッ


 と誰かにドアをノックされた。

 家族でノックする人物が思い浮かばなかったので不信に思っていると


 コンコンッ コンコンッ


 と再びノックされた。

 俺は意を決して恐る恐るドアをあけると、そこには不機嫌な顔をした柚希がいた。


「もう! 早く開けてよね」


 と文句を言いながら部屋に入って来る。

 俺は慌ててドアを閉めて柚希に尋ねる。


「大丈夫なのかよ?」

「大丈夫でしょ、最近のお兄ちゃんは変わったなとか言ってたし」


 両親は俺と柚希が仲良くする事に反対している。

 中学の時の俺は学校だけでなく家でも殆ど喋らずゲームばかりしていたので、そんな俺と親しくしていると優秀な柚希まで変な目で見られるかもしれないという理由で、両親の前では会話すらできなかった。

 そんな経緯があり、両親が寝た後に会議を開いていたのだが、まだ両親が起きてる時間に、しかも俺の部屋に柚希が居るとバレたらどう弁明しようか。


「今日も帰って来たお兄ちゃん見てリア充みたいって言ってたから、今までみたいな事にはならないと思うよ」

「そ、そうか。これで母さん達に心配かける事もないな」


 今まで心配かけてたみたいだから良かった。


「それよりも! 明日デートに誘われたの?」

「デートなのかなぁ。買い物に付き合ってって言われただけだし」

「世間ではそれをデートって呼ぶの!」


 やっぱりデートなのか。

 だとするとやっぱり服装は大事だよな。


「マネキン買いした服は今日着たから明日の服装はどうすればいい?」

「その服はもう洗濯して乾燥機に掛けた?」

「ああ、風呂の時に一緒に洗濯して乾燥機の中に入ってる」

「じゃ、早く持ってきて」


 柚希に言われるがままに乾燥機から服を取り出し部屋に戻る。


「持って来たぞ」

「う~んと、パンツはそのままでいいから……」

「パンツ? ちゃんと毎日履き替えてるよ」

「そっちのパンツじゃない! ズボンの事!」

「そ、そうなのか……」


 なんだよパンツって! リア充は色んな言葉使うよな。


「持ってる服全部見せて」


 言われるがままにタンスから服を出しベッドに並べる。


「う~ん、今の季節だと……」


 顎に手をやりブツブツ言いながら真剣に考えている。

 これが純粋に兄を思っての行動なら嬉しいんだけどな。


「よし! インナーはこのTシャツでアウターにこれを着ればいい感じになると思う」

「本当か!」

「私を信じなさい!」


 柚希が問題ないと感じてるなら本当に問題はないのだろう。

 あと問題なのは


「明日は俺は何をすればいいんだ?」

「そこなんだよね~。お兄ちゃんが上手く立ち回れるとは思えないし、それに……」

「それに?」

「新島先輩の事だからただのデートとは思えないかな」


 言われてみればそうだな。 何か裏があるのかもしれない。


「確かに。今日行ったパスタ屋も柚希から教えて貰ったって見抜いてたしな」

「まぁそれは見抜いて当然でしょ」


 自分でも分かってるけど、そんなにバッサリ切らなくてもいいじゃんか。


「今の俺をデートに誘う事に何か意味があるのかもしれないな。経験値を積む感じで」

「それはあるかもね。あとは単純にお兄ちゃんを落としに来てるかかな」

「はぁ? あいつが興味あるのは学校一のリア充に成った時の俺じゃないのか?」


 俺が学校一のリア充になったら好きになってあげるって言われたしな。


「自分に惚れさせれば色々楽に動かせるって感じなのかも」

「はっ! まさかとは思うけど柚希もその方法使ってたりするのか?」

「そんな事しないよ。でも勝手に相手が好きになるのはしょうがないよね」


 えぇ~。この二人が特殊なだけだよね? 女の人皆が同じ考え持ってる訳じゃないよね?


「でもさ……」

「なに?」

「いや、何でもない」

「ちょっと! 気になるんですけど」

「マジで何でもないから! 気にすんな」


 俺はなんて馬鹿な事考えてんだ。

 逆に俺に惚れさせちゃえばいいなんて。

 それに新島の素を知っても何処か魅かれてる自分が居る。

 これも新島の計画通りなのだろうか?


「とりあえず明日頑張りなよ、もう部屋に戻るね」

「ちょっと待った!」

「な~に~?」

「またお店を紹介してください」

「しょうがないな~」


 万が一に備えて店も紹介してもらって、服も柚希のお墨付きだ。

 あとはなる様になれだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る